旅するランナー

テルアビブ・オン・ファイアの旅するランナーのレビュー・感想・評価

4.2
【Tel Aviv Cease Fire】

中東問題を考えると、どうしてもシリアスになってしまいます。
イスラエル人とパレスチナ人って、きっと24時間365日緊張してるんだと勝手に思い込んでます。
まあ、そんなわけないか...って分からせてくれる、この映画の主人公たちのダラダラのんびり適当具合が心地よいです。
パレスチナ問題をコメディタッチで描いていて新鮮なんです。
確かに厳しい統制、譲れない方針、反発する意識に覆われてはいますけど、そんな緊張と、そこはかとない緩和のバランスが絶妙です。

テレビドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の製作が進んでいきます。
しれっと脚本を担当することになった主人公、パレスチナ人のサラーム。
彼がエルサレムの家から撮影所に通うためには、イスラエルの検問所を通過する必要があります。
そこの司令官が、イスラエル軍人目線から脚本にチャチャを入れ、変てこなコラボがはじまります。
そして、このチープでアホらしいドラマが、イスラエル・パレスチナ双方の女性たちの間で大人気になっていきます。
ちょっと停戦状態です。

結局、サメフ・ゾアビ監督によると、司令官がこだわるドラマでの結婚式はオスロ合意(1993年、ノルウェー外相の仲介でイスラエルとPLOが初めて和平交渉に合意し、パレスチナ暫定自治協定が成立した)を象徴しているらしいです。
イスラエルからの非現実的な要求の押し付けということなのです。
そんなものをぶっ潰す、爆発的な結末が、とんでもなくブラック・ユーモア。
まあ、軽い気持ちで、パレスチナ問題を勉強でき、フムス(ひよこ豆をペーストにした中東地域の伝統料理)を食べたくなる佳作です。