亘

堕ちた希望の亘のレビュー・感想・評価

堕ちた希望(2018年製作の映画)
3.6
【守りたい希望】
ナポリ近郊の貧民街。マリアは闇組織の一員として売春と人身売買を行っていた。売春で生まれた子供を売り飛ばすために、妊娠40週目の女性を隔離するのが彼女の業務。しかしある日彼女自身の妊娠が発覚する。思いがけない事態に彼女はおかれた環境からの脱出を目指す。

イタリア南部の貧民街を舞台に、"人の心を取り戻した"1人の女性を描く作品。本作の舞台は、多くの人が思い描くイタリアのイメージからかけ離れている。ごみのあふれた海岸、ぼろぼろのあばら家に暮らす人々、流れるアフリカ音楽。本作の舞台設定は多くの人が描くイタリアと異なるしほかの作品でもなかなか描かれない。暗めの映像も相まって重苦しい空気が流れ、原題「希望の罪」にもあるように希望を感じられない。だからこそ本作の主人公マリアの姿には一抹の希望を感じられる。

本作で描かれるのは、売春と人身売買。売春婦に働かせるだけ働かせて、もし妊娠した場合40週目になったら隔離し、その後生まれた父親のわからない子供を売り飛ばすのだ。誰が父親かもわからない子供でも女性たちは我が子として引き離されるのを拒み続ける。一方で闇組織を動かしているのは年齢が上の女性たち。「人々は自由に取りつかれている。それは空っぽの大地だ。無だ」と語り日々若い女性に売春と人身売買を行うのだ。

マリアはそんな組織で妊娠40週目の女性を隔離場所に届ける仕事をしていた。見かけはヨットハーバーのアジトから海沿いのあばら家へ女性を届ける。そこでは電気棒を持った用心棒の女性が見張り出産を待つ。貧しい生活から抜け出せないままマリア自身それを当たり前の生活と思っていた。しかしある日彼女自身の妊娠が発覚する。彼女は幼いころ受けた性的暴行によって妊娠ができないはずだったのだ。医師は中絶を勧めるが彼女は子供を産むことを決心する。

それから彼女の考え方が変わる。子供は彼女にとって希望となったのだ。そして自分を重ね合わせて妊娠した女性ファティマを逃がしてしまう。さらに組織から探されることを恐れてアフリカ系移民の集落に助けを求める。とはいえ妊娠40週目を迎えると彼女もまた隔離施設へと連行されるのであった。そこからの彼女の我が子への語りと白人男性カルロの助けは印象的。またラストシーンの海沿いの壊れた小屋で子供と見る夕日は希望を感じさせた。

本作ではマリアは脱出に成功したけれど、作中だと闇組織もそれほど執念深く追っていないように見えるし、浜辺のシーンでも用心棒が消えている。実際の貧民街では脱出はもっと難しいのだろう。本作はきっとそんなフィクション性含めてでも、普遍的な母性愛や女性の強さ、希望の強さというものを示したかったのだろうと思う。

印象に残ったシーン:マリアがボートに乗るシーン。カルロがマリアとヴァージンを救うシーン。
亘