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冷たい汗のlpのレビュー・感想・評価

冷たい汗(2018年製作の映画)
4.5
東京国際映画祭にて鑑賞。

今年の東京国際映画祭のアジアの未来部門で、唯一鑑賞予定なのが今作『冷たい汗』。近年コンペにイラン映画が1本は入っていたけれど、それが今年は無し!ワールドフォーカスにファルハディやパナヒの新作が入ることもなく(おそらく日本公開が決まっているため)、「今年は気になるイラン映画が無いなぁ」と思っていた時に出会ったのが、アジアの未来で上映される今作。あらすじを読んだ印象では「イラン×女性×スポーツ」と、パナヒの『オフサイド・ガールズ』を想い起こさせるものがあり、一気に注目してしまった!
そんな訳で、唯一のアジアの未来部門だけど、かなり高い期待を抱いて鑑賞!

まず結論から書くと、これまでコンペのイラン映画に期待していたものが、全て詰まった傑作だった!
イランの女子フットサルチームの主力選手が主人公。彼女は国際大会の決勝出場のため、マレーシアへ渡航しようとするが、別居中の夫が彼女の出国を禁じている(イランでは夫が妻の出国を制限できることにビックリ!)ことを空港で知る・・・という話。
最初にパナヒの『オフサイド・ガールズ』の名前を挙げたけれど、今作はテーマにスポーツが含まれるだけで、映画の語り口は激しい会話劇がメイン。つまりは、パナヒよりもファルハディに近い。しかし、夫婦間のミクロな物語を、あくまでミクロなスケールのままに展開し、昇華させていくファルハディとは異なり、今作は物語のスケールを次第に大きくしていく。
過去にTIFFのコンペで紹介された『メルボルン』や『誕生のゆくえ』『ザ・ホーム』が、何れもファルハディの如くミクロな世界観で物語を展開していた(おそらく、ミクロな物語にメッセージを忍ばせた方が、検閲で通りやすいという各監督の意図はありそう)こともあり、夫婦間の物語が一大事へと発展する今作の展開には、「ありそうで無かった」という印象を受けた。

演出面では、夫婦間の壮絶な罵倒の応酬を、ロングショットで描く点にまず注目。激しい会話の応酬が3ヶ所ほど出てくるのだけれども、何れもロングショットで映していて、観客を一気に映画へと惹き付ける。特に調停のシーンは、かなり長いシーンをワンカットで映しており、今作の白眉と言って間違いない。これらの激しい会話劇を堪能するだけでも、今作を観る価値は充分にあるはず。

次に情報の出し方が巧い。
映画の冒頭、彼女の「夫」が出国の妨害をしていることは早々に明らかにするのだけど、今作はその後しばらく「夫」を直接描かない。これが巧い。具体的なところはネタバレ防止で伏せるけれど、「主人公の夫は一体何者!?」と観客に思わせることで注意を惹き付ける一方で、夫の異常性も早々に明示できている。鑑賞後に振り返ると、非常に効果的に映る。

最後にラストショット。
賛否が分かれるかもしれないけれど、個人的には推したい。今作のラストショットには、女性の扱いを巡るイランの現状が好転することを期待する監督の想いが、全て集約されているように感じられた。非常に巧い着地だ。

ファルハディの映画が好きな人には、ぜひともオススメしたい傑作です。もう1度TIFFで上映がある(残念ながら平日の午前中)ので、その機会にぜひとも今作を発見して欲しい!
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