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虐待の証明/ミス・ペクのエミさんのレビュー・感想・評価

虐待の証明/ミス・ペク(2018年製作の映画)
2.7
TIFFにて。韓国映画。幼少時に虐待を受けて大人になったヒロインが虐待されている少女を見過ごせずに救いたいと葛藤した果ては…!?という児童虐待をテーマにした作品。
韓国では、清純派女優として知られているハン・ジミン氏がヒロインを演じ、喧嘩のシーンや怪我を負うシーンなどを見た韓国ファンに衝撃を与えた程、台本を読んで出演したいと彼女が快諾した意欲作とのこと。

ベク・サンア(ハン・ジミン)は、前科がある故にまともな職に就けず、肉体労働を掛け持ちして生きている。人々からは『ミス・ペグ』と揶揄された呼び名で呼ばれているが、母にも全世界にも捨てられ、心がスレて自暴自棄になっているベク・サンアは意に介さない。唯一、彼女を補導した刑事のジャンソプ(イ・ヒジュン)だけが、何かと心配をして説教をしに会いにやってくる。
ある夜、近所で寒空の下、薄着で震えて軒下でうずくまっている少女を見かける。「警察へ行くと家に連れ戻される。家に帰りたくない。」という少女。とりあえず近所の屋台へ連れて行く。よく見ると体はアザだらけ、大人の視線に震えている。虐待を受けているのは明らかだった。過去の自分と目の前の少女が重なる。何とかしてやりたいが、一体、自分に何ができるであろう…。ベク・サンアは少女の母親と対決をする覚悟を決めるのであった。。

韓国は、1997年に起こった通貨危機の影響で、失業者や孤児が街に溢れるという社会問題が発生した。その頃に孤児だった子供も今や親になる年齢だ。大人に守られた経験のない子供は、精神的に自我を成長させなければ社会では生きていけず、愛された経験のない子供は手探りで人を愛することを虐げられる。暴力の連鎖を断ち切れる人とそうでない人の差異は、社会との関わりの深さに比例する。格差社会の韓国において、自由に生きられない辛さに加え、虐待を加えてしまう人と、経験者故に児童を守ろうとする人が織りなす描写は、他人事には思えない程のリアルさと切なさがあった。
愛情は表面下にあるものなのに人に伝わったりする。だが、暴力は表面上には露見しにくいし、問題解決の方法にもならない。怒りを増長させるだけだ。社会は人を救ってはくれないが、人は人を救うことが出来る。面倒くさいと思いながらも少女を捨て置けなかったベク・サンアは真っ当に生きていると思った。ベク・サンアを救ったジャンソプ。少女を救ったベク・サンア。この世界なら、まだ捨てたもんじゃないと、希望が持てた作品だった。