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海抜のslowのネタバレレビュー・内容・結末

海抜(2018年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

ちょっと待って欲しい。浩は理恵を暴行していないということ?(あらすじにそう書かれているのでそうなのかな)。そんなことってあり得るのだろうか。成人式の時点でまだあれ程の低脳ぶりを見せていた達也が、あのボート小屋のシーンで加わらないことを許すのだろうか。その時は、まだ健吾も同類で理性など働くわけもなく、加害者になることは避けられない状況だったのでは?翌日殴られてアザを作った浩が達也を遠目に見ている、とかだったらまだわかるけれども…。自分は浩も重罪を犯したものとして、その先の展開を観ていたため、これを当時学生であった監督らが撮ったのかと驚いたし、緊張感を途切れさせずに時の流れを違和なく描き切っていることに感心していたのに…。違ったみたい(それでも十分賞賛に値する作品ではある)。確かにそうなると理恵が浩を許すはずはないだろうとは思う(あの頃浩のことがちょっと気になっていたような雰囲気はあったものの、それとこれとは全く別問題だろう)。でも、暴行を止められなかったことが、成人式の日に達也を殺す程の動機となるだろうか。ならないとは言わないけれど、それだと達也に矛盾を感じるし、浩を美化し過ぎではないかな(逆に浩が理恵を好きだったという描写があれば良かったのでは)。自分が思う鬼畜な内容で苦しみ抜いた浩と理恵のラストがあれであれば、納得できたと思う。本作で理恵は浩を一応許している。消えることのない痛み。それに耐えて、耐えて、やっと人を愛し、人並みに幸せというものを手に入れた頃だったのでは。この幸せを手放してまで(記憶を蘇らせてまで)、浩を責め、社会のルールへの償いではなく、今度は自分への償いをしてとは言えなかったのではないか(本作的には浩に言う必要はないけれども)。もう何年も何年も悩まされ、疲れ切り、やっと悪夢を見る回数も減って来た頃だっただろうに。あのラストシーンは海外の監督たちの影響を強く感じるものだったし、そうなると無機質なものになってもおかしくはなかったけれど、それに感情を上手く乗せている辺り、監督のセンスを感じるものとなっていた。浩はどっちの感情であの選択をしたのだろうか。この日が来ればそうしようと決めていたのかもしれない。その日に面食らい突発的にそうしたのかもしれない。どちらにしろ、あのまま…ということになれば、理恵には新たな苦しみがのしかかってきてしまうはずだ。それはまた違う『海抜』の物語。

文句が多くなったけれど、評価されるのもよくわかるし、むしろ評価したい。監督、スタッフの作り上げた骨組みと、キャスト陣による肉付け(いざ鑑賞するとなればこっちの方が評価されるべきかも)。学生制作だと言われなければわからない程の出来の良さは、物語にすんなりと感情移入できることからも証明されていたように思う。藤井道人監督の『光と血』は瞬発的にガツンと来る作品だったのに対し、本作は静かに心を揺さぶり続けるような作品。どちらも重いテーマと向き合い罪と罰を問う力作として心に残るものだった。高橋監督の今後にも期待。
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