ナガエ

メランコリックのナガエのレビュー・感想・評価

メランコリック(2018年製作の映画)
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全体的に「チープ感」がある映画だったけど、それも含めて面白かったなぁ。

まずは内容から。
主人公のナベオカは、東大を卒業しながら一度も就職したことがなく、アルバイトを転々として生活している。今は、無職だ。自分なりになんとかしないとという気持ちはあるが、積極的にどうこうする気力はない。そんな時、はじめて行った近くにある銭湯「松の湯」で、偶然高校時代の同級生であるソウジマと再会する。ソウジマは、ナベオカに気のある素振りを見せ、同窓会に誘う。同窓会では、高校時代目立たなかったヤツが起業家として成功している様を見せつけられ、居場所に困るナベオカだったが、そこでソウジマから、今働いてないなら銭湯で働けばいいじゃん、と提案される。そうすれば、会う機会も増えるし、と。
実際、銭湯で働くことになったナベオカ。同じタイミングで働き始めたマツモトと二人で、慣れない銭湯の仕事に精を出すが、ある日ナベオカは、銭湯の先輩従業員であるコデラさんが銭湯内で人を殺しているのを目撃してしまう。銭湯のオーナーであるアズマさんも一緒にいて、パニックになりながらも状況を整理すると、アズマさんは死体処理のために閉店後の銭湯を貸していて、コデラさんは殺し屋として日々忙しく飛び回っているという。行きがかり上、ナベオカは、死体処理後の清掃を担当することになるが…。
というような話です。

まず、設定がいいですね。確かに銭湯というのは、「血が飛んでも洗いやすい」「薪を燃やすのと一緒に死体処理が出来る」というわけで、人を殺すのにもってこいの舞台です。そこで夜な夜な死体処理が行われている…と言うと、ホラーチックな映画に思えるでしょうが、なかなかどうして、映画全体の雰囲気はほんわか、のんびりしてるんですね。確かに、ちょっと緊迫する場面もあるんだけど、そういう場面はむしろ稀で、人を殺してる場面も、死体処理後の掃除をしてる場面も、緊迫感はない。そもそも、ナベオカが、どういう心理なのか正確には読み取れないとはいえ、「死体処理後の清掃」という仕事に実にすんなり馴染んでしまう、という展開を見せる作品なので、ナベオカ視点で物語を追っている観客も、なし崩し的にこの世界観に慣れてしまう。

そしてこのナベオカの立ち居振る舞いが、「死体処理に関わってるのにふわっとしている」という映画全体の謎めいた雰囲気を作り出してるんですね。なかなか掴みどころのないキャラクターで、演技も上手いのか下手なのか判断しにくいというような感じなんだけど、独特の雰囲気を持ってる。なるほど、こういう感じの人間なら、こういう異常な状況にもすんなり馴染めちゃうかもなぁ、というような、妙な説得力がある。この主人公のキャラクターが、映画全体の妙な雰囲気を成立させてるなぁ、という感じがしました。

ストーリーは、「提示される情報が少ない」という理由もあるんだけど、なかなか先が読めないです。これを良しとするかどうかは見る人次第かなぁ。僕は悪くないと思うけど、ただ、「いきなりそうなる!?」っていうような唐突感を抱いてしまう部分もちょっとあったりして、全部を承服出来るかというとそうでもないなぁ、という感じはしました。

役者の演技は、演技についての良し悪しがちゃんと分かる人間では決してないけど、まあ下手かなぁ、という感じはしました。でもこの映画は、自主制作に限りなく近い商業映画だろうし、役者の演技をそこまで求めるのは酷だよなぁ、という感じはします。ただ一方で、まったく同じ脚本で、もっと有名な俳優が演じたら、やっぱりもっと面白くなるんだろうなぁ、と思ったりしました。ただ、有名な俳優を使うと、主人公のナベオカの雰囲気はなかなか出せないと思うんで、その辺りの良し悪しはあるかもしれません。おそらく観客が誰も知らないだろう、無名の、どんなな人物なのかまったく知られていない役者がナベオカという人物を演じたからこそこの雰囲気を出せたわけで、そういう意味では、役者の演技云々よりも、この映画全体の雰囲気のことを考えて、こういう無名の役者でやることがこの脚本には正解だった、ということになるのかもしれません。その辺りのことは、なかなか難しいですね。

個人的には、ナベオカが付き合うことになるソウジマさんが結構好きだなぁ。男的に、「あな感じで女子の方から来てくれるとかいいよね」みたいに思っちゃってるのかもだけど、なんか個人的に凄くいいなぁ、って感じがしました。あと、マツモトという役も、この俳優じゃないとなかなかハマらないだろうなぁ、という感じがあって、その個性的な存在感は良かったなと思います。

「絶対観た方が良いよ!」という感じで勧めることはないけど、個人的には好きな映画だし、こういうの好きそうだなぁ、と相手の趣味に合わせて勧めようかな、と思えるような映画でした。
ナガエ

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