YokoGoto

メランコリックのYokoGotoのレビュー・感想・評価

メランコリック(2018年製作の映画)
4.5
<作り手の映画への情熱が感じられる映画>

面白い邦画に出会えた時、感動にも似た気持ちの高揚感を味わう事がある。

それは、有名な映画監督が撮影したとか、有名な俳優さんがでているとか、そういうことではなく、ただただ、『映画』という作品のクオリティで勝負している映画人の熱量を肌で感じ、その情熱に心打たれる体験である。

それが映画監督としての長編デビュー作であったりすると、まるで荒野の中からキラリと光るダイヤモンドの原石を見つけたかのような感動さえ感じてしまう。

昨今、日本映画は、インディーズ映画でヒットして有名になる作品がいくつか登場した。奇想天外な演出で話題になった『カメラを止めるな!』は、空前のヒット作となり観客動員数も桁違いの数を叩き出した。ある意味、社会現象を引き起こしたと言っても過言ではなかったろう。

そういえば、『カメラを止めるな!』もそうだった。

監督はじめ、キャスト全員の映画への情熱と、『好きな映画を撮るんだ』というひたむきな思い。そういう熱量が観客の心を動かし、人から人へと口コミが伝播したのである。

そういう意味では、この映画『メランコリック』も同じ熱量を持った映画だと思う。

劇場でこそ見なかったが、ソフト化されたら、すぐ観たい作品の一つだったのだが、その期待は軽々と予想を超えるほどの出来栄えで、心底感動を覚えるほどだった。劇場公開された時も、多くの映画ファンに称賛されたが、その前評判どおりの作品であった。

<良質なシナリオと演出>

映画『メランコリック』を一言で表すとしたら、それは『絶妙なアンバランス』である。

真面目に観ているこちら側が、ちょっと馬鹿らしくなるほどのアンバランス感が、ぐいぐいと物語を引っ張っていく。

『お風呂屋さん』と『殺人』。
『東大』と『ニート』。
『殺し屋』と『好青年』。

どれをとっても、一見、親和性のなさそうな組み合わせが、絶妙にマーブル色に混ざり合うから面白い。

絶妙なアンバランスは、どこか滑稽なのに、時にシリアスで、想像できない話の展開にぐいぐい引き込まれていってしまう。このアンバランスがただのフィクションではなく、『あるかもしれない…』とリアリティを感じてしまうのは、自然な演出と役者陣の演技力である。個性の強いキャラクターなのに、絶妙にリアリティがあって、決して作り物の臭いがしない。

これは、監督含め制作スタッフ側の圧倒的な実力によるものだ。

『こういう映画をつくりたい』
『こういう映画を作るんだ』

という揺るがないものが制作側にあるのである。

<読めない展開にハラハラ>

とにかく、映画『メランコリック』はシナリオが面白い。

映画の予告編やオフィシャルサイトにもあるとおり、物語のあらすじは、主人公が銭湯でバイトすることになるが、銭湯が閉店後の深夜、風呂場を「人を殺す場所」として貸し出していることを知る。そこから話が展開していくのだが、思いの外、展開が読めない。

普通に考えたら、主人公(東大卒のニート)が、そんな環境にいられるわけがない、となるはずだ。

しかし、本作は、そのハードルを軽々と超えて、サスペンス&ホラーからブラック・コメディへと誘う。全く読めない展開にハラハラしながらも、なんともアンバランスなホッコリ感を感じながら、物語の世界にすっかり陶酔してしまう、というのが本作の魅力である。

<ジャンルのわからなさ>

とりわけ、本作『メランコリック』はどのようなジャンルに分類されるのか、かなり微妙な作品だ。映画の予告編を観る限りでは、サスペンス&ホラーに分類されるような気もするが、実際の本編は、また異なる様相を呈す。

いわゆるブラックコメディというジャンルに分けられる気もするが、コメディとするには、かなりサスペンス調にリアリティがありすぎる。

しかし、このジャンルのわからなさが、実に癖になるのである。

殺人というおどろおどろしい場面の後でも、なんとも間の抜けたシーンで、急に現実社会に戻される。『そうだ、普通の生活』の中で生きていたんだと。非日常と思いっきりの日常がごちゃまぜで、このジャンルのわからなさを楽しむ映画でもあるとも言える。

なので、予告編をみて『ちょっとサスペンス苦手』と思った方でも、そんな事はないので安心して観ていただきたい。

<愛されるキャラクター>

なんといっても、本作『メランコリック』の最大の魅力はキャストが演じる一人ひとりのキャラクターにあると思う。

かなり濃い味のキャラクターが勢揃いだ。

通常、濃いキャラクターは『非現実的なキャラ』という違和感を感じるのだが、これが本作にはない。実際に存在しそうなリアリティあるキャラクター。これは、監督はじめ制作側のこだわりだろうし、映画をよくわかっている制作陣が作った映画であると言わざるを得ない。

まるで、隣人にいそうな登場人物。
私たちのリアルに溶け込んでいそうなキャラクターが、フィクションを超えて、私たちを物語に誘うのである。

さらには、キャラクターに嫌味がない。誰もが認める善人でもなさそうだが、なんとなく愛されてしまう。これは、自然に愛されるキャラクターを作り上げた、俳優陣および制作陣の実力と情熱だろうと思う。

映画にとって、とても重要なのは『後味』である。

良い映画だと感じるのも、人に良い映画だとすすめるのも、映画鑑賞後に感じつ後味(あとあじ)に左右される。

爽快感、温かみ、恐怖、無力感。

ポジティブな後味であっても、ネガティブな後味であっても、それは映画が持つ独自の熱量であり、それが観た人にいろんな感情を与え、それ自体が映画を観る醍醐味とも言えよう。

そういう意味では、本作『メランコリック』の後味は、なんとも表現しにくい。

しかし、なんとなく人を信じる事を諦めないという勇気を与えてくれる作品だ。決して諸手を挙げて賞賛されることではないだろう。

それでも、この絶妙なアンバランスの中で、人と人とをつなぐ偶然と奇跡を感じ取れる、そんな逸品であることは間違いない。
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