ラウぺ

ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実のラウぺのレビュー・感想・評価

3.8
1999年、アメリカ空軍省のスコット・ハフマンは退役軍人のトム・タリーの訪問を受ける。ベトナム戦争で戦死したウィリアム・ピッツェンバーガーの空軍十字章から名誉勲章へのアップグレード却下の再調査を依頼するためだった。退任を決めたばかりの空軍長官はハフマンに対し再調査し報告するよう指示する。渋々再調査を引き受けたスコットだったが、次第に調査にのめり込んでいく・・・

アメリカ軍人に送られる最高位の勲章である名誉勲章(Medal of Honor)はこれまで3500人近くが受章していますが、そのなかには『ハクソーリッジ』のデズモンド・T・ドス、『ブラックホークダウン』のデルタ・フォースの隊員、『アウトポスト』のキーティング前哨基地の守備隊員などが居ます。
名誉勲章にこだわる意味を理解しかねるハフマンに対し空軍長官は調査に際し「そこから勉強したまえ」と指示を出す。
ウィリアム・ピッツェンバーガーは空軍のパラレスキュー隊員で、1966年4月11日、救助用ヘリから地上に降りて負傷者の救護と戦闘にも加わり戦死。
ハフマンはピッツェンバーガ―に助けられた元陸軍兵士を訪ね、それぞれの兵士の回想を交互に挟むことで戦闘中に何が起きたのか明らかにしていきます。
生き残った兵士はみな重いトラウマを背負い、30年の長きに亘りそれと闘いながら生きてきた。タリーをはじめ生存者たちはピッツェンバーガ―の名誉勲章受章を叶えることで心の安息を手にしたい、という願いでもあることが明らかになっていきます。

『シカゴ7裁判』でもそうでしたが、アメリカの戦争で犠牲となった兵士への特別の尊敬の念は非常に強いものがあり、本作においてもピッツェンバーガ―と関わりのあった人物の言動にもそのことが色濃く表れています。
国防省の職員として制服組をコントロールする官僚意識から逸脱することなく、省内での出世に専念していたハフマンが、救助された元兵士の言葉に衝き動かされるように調査にのめり込んでいく様子は、こうしたアメリカ人に根付いたメンタリティに深く訴えかけるものがあるのだろうと思います。

一方で物語は、戦闘での犠牲者が多数に上った経緯や、作戦そのものに隠された意図が悲劇の元となっていること、更には名誉勲章へのアップグレードが意図的に避けられてきた驚くべき事情など、さまざまな事実が明るみにでてきます。
映画の冒頭に“inspired by true story”とクレジットされるのですが、例によって本作でもどこまでが真実でどこからが創作なのかという問題があります。
一人の兵士の英雄的活動の称揚という目的以上にさまざまなものを詰め込んだおかげで、後半物語がクライマックスに収斂されるべきところが、焦点がボヤけ、散漫になっていく印象があり、全体に建付けの良い物語とはいえないところがあります。
そこに創作部分があるのなら、もう少し要素を整理すべきだったかと思うのです。
また、肝心な感情を吐露する場面でその中身をセリフで語ってしまうと感じる場面がやや目立つのも惜しいところ。
爺俳優のオールスター共演という贅沢なキャスティングが大いに堪能できるのが本作の大きな見どころのひとつですが、(そこに助けられているとはいえ)脚本はもう少し練り込んで欲しかったと思います。

全ての謎が明らかとなり、大団円を迎えるラストは確かに感動的なのですが、ここでふと思うのは、これまでのベトナム戦争を題材とした映画のスタンスとの微妙な違いです。
『グリーン・ベレー』のような体制翼賛的ベトナム戦争映画の反動もあってか、1970年代後半以降の『ディア・ハンター』や『地獄の黙示録』『プラトーン』といった映画で見られた強烈なベトナムアレルギーという要素はなく、戦場での兵士のヒロイックな側面をクローズアップする作風は、これまでのベトナム戦争映画の系譜とは路線を異にするものです。
戦争という非人道的行為に対するアンチテーゼは本作内でも充分に描かれていますが、本作ではベトナムは単なる舞台装置に過ぎず、そこでアメリカが行ってきた行為に対するプロテストは微塵も感じさせません。
本作のテーマとするところはベトナム戦争への反省ではない、という意見もあるでしょうし、それは確かに正しいのですが、この割り切りの良さにはアメリカ国内でのドメスティックな需要のみに目を向け、グローバルな視点でのベトナム戦争への評価が都合よく無視されている、と思えなくもないのです。
こうした視点は『シカゴ7裁判』でも仄かに漂っているのですが、戦闘場面を直截的に扱っている本作の方がより濃厚に感じられる部分だと思います。
こうした微妙な変化が、ベトナム戦争がこれまでアメリカの経験してきた数多の戦争と同列に、過去のものとなったということなのか、それとも保守化の兆候を示すものなのか、注意深く見ていくべきところかなと思います。
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