horahuki

ノイズのhorahukiのレビュー・感想・評価

ノイズ(2006年製作の映画)
3.4
周囲を拒絶する生き方は危険を伴う…

耳が聞こえすぎる中間管理職のオッサンが音の出る物を破壊したり、部下の青年にセクハラしたりしたせいで上司に怒られまくって「もういやだ!海に行こう!」ってなる音ホラー。

マスターズオブホラー第2弾のブラッドアンダーソン監督作。この監督の映画は初めてなのですが、トラウマに起因するノイローゼで追い詰められていく姿を息苦しさいっぱいに描いた作風が面白かったです。

多くは語られないのですが、主人公のオッサンは息子を亡くしたショックで(息子が助からないことを確信した時から?)音が聞こえすぎるようになった様子。錠剤を小瓶から出す音、面談相手の腕時計の秒針の音、雨が窓ガラスを打つ音、本のページをめくる音等々、些細な音が気になり精神を正常に保てない日々。妻の声すらも耳栓でシャットアウトし、嬉しいはずの妊娠の報にも拒絶反応を見せる主人公の病み方は見てるだけで苦しくなる。。。

主人公は、コールセンターで全職員のブースを上から監視する立場にあり、ボタンで切り替えることで特定の従業員とクレーマーとの通話を聞くことができる。音が聞こえすぎる主人公にとっての聞こえない会話というのが面白かったし、それを自分から聞こうとする行為から、手を差し伸べて欲しいという救いを求める気持ちが見え隠れする。

「音」を破壊することは周囲との断絶へと繋がり、それは自身の中に閉じこもっていくことを意味するわけだけど、静寂(の中の自然音)が彼の安らぎとなっていくのは息子との思い出の中に浸り続けたいという彼だけの(息子との)世界の創造へと繋がったんかな。

もしかしたら彼にとって息子は息子以上の存在だったのかも。彼の聴覚の異常はいつから発生したのかは明確には示されないけど、息子を失う前からだったとすると、息子は生きづらさを抱える彼を理解してくれる唯一無二の存在だったんじゃないかな。だから理解者を求めたけど結局裏切られ、絶望の先にあの選択をとったのかも。

そう考えると、妻の妊娠も受け入れられず、子宮に見立てた壁を壊した先には化け物のような子がウジャウジャいる幻想を見たのも納得がいきますね。そもそも妻も壊れてるので、妊娠は妄想の可能性が高いわけだけど…。

でもどちらにしても切なくて悲しいお話でした。これもなかなか面白かったです。
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