永遠の大傑作『タレンタイム』の音楽監督を務めたピート・テオがプロデュースした短編集。マレーシアの監督15人によるオムニバス短編+PV4本という構成です。
見どころはヤスミン・アフマドの遺作となる短編『チョコレート』およびそのメイキング、『タレンタイム』のクライマックスを飾る名曲『I GO』のピート・テオ版のPVですかねぇ。
個人的には3番目のPVである『Here in My Home』がとても印象に残りました。名曲ですね。ピート・テオの曲ってあんまりアップル・ミュージックに無いんだよなぁ。この曲も別のミュージシャンバージョンはありましたが、本編のマレーシアン・アーティスト・フォー・ユニティバージョンは見つからなかった。
15本の短編は、基本的にマレーシアの民族事情を頭に入れて観ないとわかりづらいと思います。マレーシアはマジョリティのマレー系、マイノリティの中国系とインド系で構成され、それぞれが分断されています。それを踏まえて観ると、それぞれの作品群が人種の分断、およびそれを越えて行こうとする方向性を持っているように感じました。
【短評】
・チョコレート
ヤスミン師匠の遺作。カーホウ演じた中国系の青年と、ヤスミンの分身といえるマレー系美女シャリファ・アマニとの一瞬の交流を描く作品。フィル友・マリさんが超丁寧に詳細を説明してくださっているので、解説はマリさんのレビューを参照してください。
上記のマレーシアの実情を頭に入れてなければ?な作品だと思います。しかし、微細な分断を維持しようとする重力が描かれており、ムム〜と唸りました。シャリファの笑顔が相変わらず最強なのも切なさに拍車をかけます。
メイキングも良かったです。ヤスミンは批判に対して「だから何か?」的なアティテュードなのが最高すぎる。早逝はホントに惜しい。シャリファがショートカットになっていてショック。
・ハウス
インド系の母子の話。マレーシアではインド系がかなり抑圧されているとのこと。母子は貧乏でボロ屋に住んでいますが、子どもは父が作った家が好き。しかし、その後2人は厳しい運命に晒される。
傷ついた子どもに寄り添うのがなんとヤスミン師匠。素晴らしいエンディングだと感じました。
しかし、改めて見ると、ヤスミン師匠は結構デカく、血圧高そう。健康大事ですね…
・ロジャック
マレーシアの『混ぜサラダ』から、分断されたマレーシアを語る作品。全編が実写を元にしたアニメでクールな印象。「カレーソースをかければバラバラな味もまとまるのにな」的なセリフがイカす。
・ハラール
なんか笑っちゃう1本。『タレンタイム』の先生役のアディバ・ノールさんが謎のおばちゃん(中国系?)とイスラム料理の説明をする話。「ハラールでマレーシアをひとつに」という明るい作品だけど、鳥コントでオーバーキルする感じとかはもしかすると非イスラムへの抑圧や攻撃のメタファーなのかもしれない。しかし、おばちゃんがマシンガンで鳥と一般人を撃ちまくるシーンはマッドで笑えます。