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世界の優しき無関心のmimotoxmimotoのレビュー・感想・評価

世界の優しき無関心(2018年製作の映画)
3.4
死んだ父が残した借金の肩代わりで身売りせざるを得ない女性と、彼女と行動を共にする、かつてその家の使用人であった男性の心の触れ合いを詩的な映像で紡いだ、カザフスタン映画。

ポエティックな映像は美しいのに、始終渇いて、過剰な感傷を拒否しているよう。
でも、どうして、二人がカミュの『異邦人』を通して初めてお互いの心をとても近くに感じるシーンでときめかずにいられようか。

男性が女性に対して「イノセンス」という形容をするのはちょっとキモいと思ったけど、どちらかというとイノセンスな存在として描かれていたのは男性の方なので、女性に”女性性”を押し付けすぎるところは回避できていたように思う。

乱暴にまとめてしまえば、救いがなくて二人で共に堕ちていく話なんだけど「わたしたちはこれを、幸福と、もしくは愛と呼ぶ」と宣言するような強さがある。

作中ではスタンダール『赤と黒』にも言及されていて、主人公の女性が身売り前には赤のワンピース、身売り後には黒のワンピースを着ている。スタンダールが赤と黒に持たせただろう意味と逆転しているのがちょっとおもしろかった。

西洋絵画に詳しくないので誰の絵かわからないんだけど、この後を暗示するような絵のショットがちょくちょく挟まれて、いちいちかわいくて、それもよかった。

以下は、題名にもなっているカミュの『異邦人』からの引用部。

「私ははじめて、世界の優しい無関心に、心をひらいた。これほど世界を自分に近いものと感じ、自分の兄弟のように感じると、私は、自分が幸福だったし、今もなお幸福であることを悟った。」

二人はこの感覚を、魂で共有したんだ。
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