三陸わかめ

サマー・オブ・84の三陸わかめのレビュー・感想・評価

サマー・オブ・84(2017年製作の映画)
4.9
核心には触れませんが後ろの方少しネタバレします。なんといっても結末が好きだったので。

これはなんとも僕好みの作品でした。自転車放り投げる系のジュヴナイル映画の中でもことさら暗く、後味が悪いです。音楽も不穏なテクノポップが最高。

あらすじ------------------------------
1984年、アメリカのオレゴン州に住む15歳の少年デイヴィーは、ある夜に隣人マッキーの家で少年らしき人影を目撃しました。

同じ頃、近隣では子供たちが行方不明になる事件が発生しており、“ケープメイの殺人鬼”を名乗る人物からの手紙により、一連の事件が同一犯による犯行である可能性が出てきました。

マッキーの家で目撃したのは行方不明の少年ではないか?と考えたデイヴィーは、親友の不良イーツ、肥満児のウッディ、眼鏡のファラデイに、マッキーこそが“ケープメイの殺人鬼”であり、その証拠を自分たちの手で掴もうと提案する…。
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こんな物語、わくわくしないわけないでしょう。しかし、映画始まる前の予告編がホラー映画だらけだったので、あれ?おかしいな?と思いましたが、全部見て納得しました。

「日常に潜む恐怖」これがこの映画の主題だと思います。

きっと大人はいままで何度も似たような日々を過ごしてきて、「日常」に対する感覚が麻痺しているのでしょう。隣人に対して警戒心も何もなく、彼ら彼女らが裏でどんな顔をしているかも興味がない。

しかし、少年たちはまだ毎日を新鮮な目で見つめることができる、鋭い感覚を持ち合わせています。だからこそ、この物語で「日常に潜む恐怖」を暴き出す存在は若い少年たちでなくてはならず、彼らでしかなし得ないことなんだと思いました。ジュヴナイル映画として、とてもリーズナブルな主題とシチュエーションだと思いました。

あと、これは完全に好みですが、殺人鬼を追い詰めて見事勝利して、「俺たちは困難を乗り越えた!」みたいな成長劇も悪くはないですが(itみたいな)、それだと作品内の中で、少年たちの物語は完結してしまう気がします。それではやはり勿体ない。少年たちはまだまだこれから人生が始まるのだから、これからを予感させる終わり方がいい、本作はそんな僕の期待に見事に応えていただけました。

この作品のように、少年たちに悲惨な現実を突きつける系の方がリアリティがあって好きです。

あの結末は人によっては「最悪…」となると思いますが、主人公デイヴィーは正義感に溢れ、達観した冷静な判断力の持ち主。他の住民が街を次々と去る中、彼だけは冒頭と同じく自転車で街を走りまわります。これはデイヴィーが自分の過去と真正面から向き合い、これからも自らの恐怖と対峙していこうという気持ちの現れではないでしょうか。

ラストで、冒頭と同じデイヴィーのモノローグが流れますが、内容は同じなのに言葉の重みが違います。まるで一夏で10年くらいの人生経験を積んだかのような。

絶望感が漂いつつも、力強い未来を予感させるラストに乾杯です。
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