TOSHI

第三夫人と髪飾りのTOSHIのレビュー・感想・評価

第三夫人と髪飾り(2018年製作の映画)
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また、大昔の実話に基づく作品だ。確かに過去から現代を照らし、現代・現代人の姿を浮かび上がらせるのは、映画の有効なアプローチだが、それが第一の手段ではない筈だ。何故、直接的に現代を描かず、大昔を舞台にした映画がこれ程多いのかと言えば、歴史の重み、それによりもたらされる品格に依存しているからだろう。過去を舞台にした方が、芸術性が高く見える作品を作りやすいのだ。19世紀の、神秘的な絶景を背景にした本作も、そんな目論見で作られているように思える。

発想に感心できない分、厳しい目で見る事になるが、断崖絶壁の山々に囲まれて流れる川を、船が下ってくる、静謐なファーストショットから、打ちのめされる。映像の力は、一目瞭然である。これが初監督作という、アッシュ・メイフェア監督の才能に唸る。
北ベトナムの絹の里を治める、一夫多妻の大地主・ハンに、少女・メイ(グエン・フォン・チャー・ミー)が三番目の妻として嫁いで来る。エレガントな第一夫人・ハには一人息子・ソン、魅惑的な第二夫人・スアンには、娘が三人いたが、一族には新たな男児の誕生が待望されていた。メイは、後継ぎとなる男児を産んでこそ、この一族で、“奥様”となれる事を知る。
直接的な性描写は無いが(当局による検閲があるベトナムでは、不可能なのだろう)、ハンが行為の前にメイを、床に這わせたり、シーツについた血による処女の証明が晒されたりと、周辺の描写は際どい。
メイは間も無く妊娠するが、ハも妊娠している事が分かる。そして、縁談が持ち上がっているソンには、秘め事があった…。

まさに女性が子供を産む道具扱いされている訳だが、三人の夫人の自我が明確にされ、その対立や連携、更には恋愛感情と、複雑な関係が繊細に描かれる事に、本作の核心があるだろう。
性差別の抑圧構造の中で生きるしかない、女性達をビビッドに、深く掘り下げて描いた事は確かに、未だに性差別が根強く残る現代にも、強く訴えて来る物がある。
三人の夫人はそれぞれに、男性絶対優位で一夫多妻の社会システムに反抗するが、ラストにフォーカスされるある人物が、本作のメッセージを体現する。

大昔から現在を照らす映画としては、現代に通ずるメッセージ性は高い。しかしメッセージは、映画には付随的な物である。こんな大昔の設定の映画が今、作られた意味は一重に、映像の力にある。奇岩が連なる断崖地帯で、世界遺産であるチャンアンには、19世紀だと言われても納得してしまう、時が止まったかのような、手付かずの大自然故の説得力があるが、高精細なデジタル撮影で表現される大昔は、アナログの時代にはなかった、圧倒的な、めくるめく映像体験をもたらす。

私は映像技術の進歩を、映画の進化とは考えたくが、明確なビジョン、構図があった上で、それを最大化する本作のような技術の進歩であれば、映画の進化と言えるかも知れない。まさに劇場のスクリーンで観るべき作品だ。
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