ひでやん

運び屋のひでやんのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
4.1
実話を基に、麻薬カルテルの運び屋となった90歳の老人を描いたクライム・ムービー。

『グラン・トリノ』が最後の映画出演になるだろう、これからは監督業に専念すると言ったイーストウッド。もうスクリーンで彼の姿が見れないと思うと寂しい気持ちになったのだが、スクリーンにカムバック。10年ぶりに自身の監督作で主演した彼の姿を観ると、「これが最後」と毎回言いながら生涯現役でいて下さいと思った。

長年家族をないがしろにし、たった1日しか咲かない花の栽培に生きてきた孤独な老人アール。直接販売はネット販売に敗北し、農園を手放す老人。世の中が便利になるほど人の交流がなくなると、アールを通してイーストウッドが嘆いているようだ。

ジャケ写から重厚なクライム・ムービーを想像したのだが、意外とコミカルで陽気なはじまり。いつもの渋いイーストウッドとは違い、お調子者で愛嬌のある爺ちゃんが銃の代わりに言葉を投げかける。行く先々で出会う人に声をかけるアールに、社会と繋がっていたいという老人の孤独を感じた。

町から町へ走るだけで高額な報酬。麻薬取締局の視点によって、観客はアールより先に荷物の中身を知るが、何も知らないアール視点では陽気なロード・ムービー。迫りくる捜査の手にハラハラするも、誰にも怪しまれずに監視の目をすり抜けるアールが痛快。

捜査官に協力するルイスが宮迫に見えて仕方なかった。ルイスが提供する情報によってアールへと近づく捜査官。正体を知らずに会話するモーテルや朝食のシーンは心に残る名場面。

手にした金を人のために使っても、費やした時間は金では買えない。実娘アリソン・イーストウッドが娘役を演じ、その家族と向き合う父の姿は、イーストウッド自身を投影しているようだった。
ひでやん

ひでやん