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運び屋のneroのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
3.5
回転式チャンネルの白黒TVの中で先輩カウボーイ達におちょくられていたあの若造がもう88のジジイかよ・・・・ため息しか出ないわ。ここしばらく監督としてしかクレジットされていなかったイーストウッド爺さん。もう出演はしないものと思ってたが、 何?伝説の運び屋? はいはい、遺作のつもりで見に行ったよ。

爺さん何をやらかしてくれたん? 
時代に乗り遅れ、家も農園も失って孫娘を頼ろうとする来年90の百合狂い園芸ジジイ・アール。ガンコジジイでもちょいワルナンパジジイでもなく、妙に軽いところがあるのがまた浮世離れしていて、仕事一徹というより自分ファーストなのが家族に見放された理由だろうと早々に感じさせる。つまり自業自得。
確かにあの年ですべてを無くしたらどうするだろう? おそらく行きつくのは諦観しかない。ところがこのジジイ・アールは誘われるままに悪事に加担する。おぼつかない足元に、ハンドルにすがりつくような腕の力の入らなさ加減、演技にしてもあのよぼよぼのザマは、そろそろ古希の声が聞こえようかというこちとらには身につまされる。その老いぼれさゆえに麻薬組織に目をつけられたっていうのは、実話ベースだというから説得力なくもない・・・のかな?
アメリカの年金制度は日本の比じゃなくキビシイとも聞くが、それでもこの流されようはあんまりじゃないんか。確たる意志も選択もなくずるずるとMULE(騾馬)に仕立てられ、片道ざっと1500マイルを言われるままに麻薬を運ぶ。
若いフリオと違って今更認めてもらいたいという承認欲求もなく、言ってみれば完全に金のため。どこかで、失った時間も自分の居場所も金で買えると勘違いしちゃったわけだが、その報いは、しっぺ返しではなく無常の形で彼に還ってくる。

はっきり言おう! ジジイは観ちゃいかん! この映画は老後になんの希望も与えてはくれない。(sigh)
確かにただ朽ちていくだけの余生にささやかながら爪を立てようとするそのディティールは丁寧に描かれているし、最後に娘たちとの和解が置かれてほっこりするわけだが、それほど家族が大事かい? それだけは納得できない。
ただし、さすが毎食肉食ってるアメリカ人、あの年でお姉ちゃんたちと遊ぶ元気があるのがスゴイ。自分はすでに前立腺肥大症状が出てきているが、あれは見習いたいものだ。

で、麻薬組織もスマホ持たせてGPSも設定してない、身元も調べてないってバカ過ぎてありえない。婆さん臨終の床か葬儀会場へ乱入してくるとばっかり。だいたいDEAがおマヌケすぎて、シリアスなんだかコメディなんだか、見ている自分はきっとビミョーな顔していたと思う。犯罪ドラマとしては最後までホノボノだった。

今回吹き替え版は無いようだが、やっぱり山田康雄さんの声が懐かしい。おとぼけモードで聞きたかったと思うねえ。
そうそう松浦美奈さんの字幕は本当に安心できる。映画情報に字幕担当者も掲載できんもんかなあ。
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