サンヨンイチ

運び屋のサンヨンイチのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
4.0
比較的ストレートなストーリーテリングでありながら
ズシッと心に落ちてくるのは、
クリント・イーストウッドの為せる演技の妙か。
はたまた、すごく人生に疲れを感じているからか。
何にせよ、今一度これまでの半生を振り返り、これからの半生をどう過ごしていくべきか自分に問いかける映画。

デイリリーという花の園芸職に人生を捧げてきたアールは家族を省みず、
娘の結婚式や結婚記念日をもすっぽかす人格破綻者。
やがて商売も失敗し、いよいよ行く宛もなくなったアールは車で荷物を運ぶだけで報酬がもらえる仕事に誘われる。
しかし、あまりに高額な報酬に疑問を感じたアールが荷物の中身を見てみると、それはコカインだった。麻薬カルテルの運び屋となってしまったアールの運命はー。

というのが予告編でわかるあらすじ。

実際はロードムービー的構成で、
頑固っぽい前時代者だが、周囲を融和させるアールの影響で麻薬カルテルの面々がまるくなったり、
大金を手に入れることで、家族との関係性を見つめ直す話。
2時間超であるものの
全体的にカラッとしていて
観賞後感もスッキリしている。

前半は自由きまま、運び屋なんてそっちのけで
ドライブと人との関わりあいを楽しむアールに周囲は振り回されっぱなし。
仕事を通じてであれば周囲に溶け込める魅力的なアールも、
家族との関係構築は疎かにしてしまっていたどうしようもない半生が窺える。

身近な死を目前とし、
人生としては遅すぎる帰宅を果たしたアールは
初めて仕事を放り出し、家族との時間を大事にする。
人生に遅すぎるなんてことはない
とは言うけれど
遅くなってから後悔はしたくないものです。
時間だけは有限であることに気づいたアールは、
それでもなお、人としてのけじめをつけるため決断する。
最後に家族に残す言葉は
あまりに使い古されたような
お決まりの台詞だが、
クリント・イーストウッドから語られることによりあまりにも重く、心に刻まれる。

ある意味クリント・イーストウッドそのものの人生を見るような今作は
監督主演作として恐らく最後となるであろう位置付けに相応しい、
有終の作品でした。