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運び屋の海のレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
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広島行きの電車で、私の向かいに座ったおばあちゃんと、私の隣に座ったおばあちゃんが、はじめましてと言い合ってからずっと話し続けてた。途中で向かいのおばあちゃんが、突然私に、「お姉ちゃん、あたしはね、100歳まで生きたいのよ」ってすごく綺麗な笑顔でそう言ったから、びっくりしちゃって「ふふふ」って笑って誤魔化しちゃったけど、この映画を観た後の、今の私なら、きっともっとあのことばの続きを、大切にできていたのかな。私はおそらくもう二度と、広島が地元なわけでもないあのおばあちゃんに会うことはないし、あの人が何年後の何月何日に100歳になるのかなんて知らない。帰り道、駅からパーキングに歩く途中で、道端に座り込んだおじさんに怒鳴ってる若者が居た、目が合って声をかけてきた茶髪の男を無視して歩き続けた、商店街の角で、男の人がアコースティックギターを弾いて、女の子が歌を歌ってた。尾崎豊のI LOVE YOUだった。
ありがとうもごめんねも好きだよも、私たちはたった一つも、この手に握ることなんてできない。だから私は、思い出を大切にしてしまうし、記憶と記憶を結びつけては、私とあなたに重ね合わせてしまう。やさしさって、ほんとに突然、心のすきまから入り込んで、もう取り出せなくなることがある。どうでもいいはずのことが、全部どうでもよくなくなる。人生なんていうものは、いつも足りないくらいがちょうどいいことくらい、どんなに頭で分かってても、心と体は何度だって震えて、「またね」って合わせた手のひらの、その行方ばかり考えて、宙を迷って、自分の体を抱きしめて
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