◼️埋めきれない喪失
ニューヨーク・タイムズの記事をもとに製作された本作。元ネタ自体のボリュームはさほど大きいものではないと察するが、それを一つの映画として纏めるのだから流石は巨匠C.イーストウッドといったところ。
主人公アールは男の悪い部分が結集したような人物像であった。仕事熱心だがその反面、家族との時間は全く疎かにしていた。加えて見栄っ張りで、自分への賛辞が絶えることを恐れるような男だ。だが、私もそのきらいがあるし、多くの男性も大小はあれど思い当たる節があるのでは?
だから私はアールのことを芯から嫌いになることはなかった。何年もの時が経過してすっかり深くなってしまった家族との溝を埋めようと行動する彼の姿には同情してしまう。
最終盤で追い詰められた彼がようやく取った贖罪の選択肢は、男にとって虚栄心はなかなか捨てられないものだということを思わされ、同時にそれでも捨てて行動を取るべき時は必ず訪れるものだということを私は感じました。
彼ほどの人生を歩めば、これまでの道のりをガラッと変えることは出来ないが、少しだけ方向転換することは出来る。ハンドルを切り替える勇気や想いがあれば。
そんな彼の人生を表すかのような最後のシーンは余韻たっぷり。ハッピーエンドかバッドエンドかと問われたら、あれはハッピーエンドだと思いますよ。
イーストウッド本人が演じることを望んだと聞いたが、彼のなかにも去来する何かがあったのかもしれませんね。