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運び屋の東京キネマのネタバレレビュー・内容・結末

運び屋(2018年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

原題の「THE MULU」とは頑固者という意味らしい。レオ・シャープという実在の人物による事件を原案にしている。麻薬カルテルの運び屋を最初は知らぬうち、そして何を運んでいるか分かってからは確信を持ってやっていたという90歳(としているが、実際「運び屋」をやっていたのは85歳〜87歳まで)の退役軍人(映画では朝鮮戦争となっているが、実際は第二次大戦)の話。よくもまあ、こんな話があったもんだと思うが、これが実に面白い。というか、奥が深い。それに文脈は中々哲学的だ。

まあ、簡単に言ってしまえば暴走老人の話なのだが、そこはリバタリアンのクリントさん。日本の左翼系の映画監督とは全く視点が違う。よく、未必の故意、という話はあるが、これは必然の道理。犯罪性はあっても犯罪ではない。というより「コカインはデイリリー(日本品種名はニッコウキスゲ)と同じく、人々を幸せにする植物だから」とか「金は必要とする人のために使う」が目的なので、「コカインを運んで大金を貰う」の優先順位は相当に低い。というか完全に無視。それでいて清廉潔白な男かと言うとその逆で、完全に享楽的。90歳にして女も買うし、ピカピカの金のブレスレットを購入してこれ見よがしに付けたりもする。ただ一つ、自分の家族を顧みず、ただひたすらデイリリー栽培に人生を費やしてきたことにチョット後悔し始めた。死の床に着く不義理にした古女房を見舞いに行くと「わたし、怖いの・・・」の言葉に「100歳まで生きようとするのは99歳の人間だけさ。。。」と。何? とは思うけど、これがクリントさんの声を通すと何故か不思議と魅力的。

裁判の時、争えば争えたにもかかわらず「わたしは有罪です」で結審。そのまんま収監されてしまった。エンディング・ロールに流れる曲もちょっと泣かせるし、老人になるのも案外いいかも知れないと思わせる。こういう映画を88歳のクリントさんが作るんだもん。負けてられないっしょ、歳に。。。
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