TAK44マグナム

吐きだめの悪魔のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

吐きだめの悪魔(1986年製作の映画)
5.0
君は空飛ぶチンコを見たか?!


酒屋の地下から発見された古いワインを飲んだホームレスのオッサンたちが、紫や黄色の極彩色もんじゃ焼きの如くドロドロに溶けてゆき、とばっちりを受けた通行人までもがグチョグチョに溶けて死ぬという、狂乱の80年代が生んだカルトホラー!

日本公開30周年記念と言う事で、特典映像てんこ盛りのブルーレイが発売決定し、先日、新宿シネマカリテにて特別上映されたのを観に行った次第であります。
発売予定のブルーレイ版をそのまま上映したのですが、古いB級ホラー映画の割に信じられないほどの高画質(+サラウンド音)で、溶ける際のヴィヴィッドなカラー(人間のどこがあんなに極彩色なのか謎ですが・・・)も非常に映えてました。
そんな折角の高画質なのに、スクリーンに映し出されるものは端から端まで、汚らしい汚物やチンコ、風呂に入ってないオッサンばかりというのが本当にヒドイ(笑)。

原題が「StreetTrash」・・・つまり「通りのゴミ」というタイトルからしてマトモな映画ではないのは分かりますが、例えば製作アシスタントにブライアン・シンガーがしれっと参加していたり、監督をはじめ、スタッフ陣は現在でも第一線で活躍している人材が揃っており、ストーリーがあるのかないのか分からないようなゲテモノ映画のくせしてカメラワークや画作りがちゃんとしていて見栄えが良いのが特徴です。
ステディカムを使った勢いのあるカメラのムーヴ、一枚の画として格好いいカットも散見され、悪役が超人ハルクみたいにドアをぶち破って登場してからのクライマックスに至っては、必殺ガスボンベミサイル炸裂から〜の、まさかのパンツをガン見する生首で本編終了!という奇跡のような一連の流れがもう最高にイカしていて、この映画を撮った奴らは頭もマトモじゃないがセンスが普通じゃねえぐらいブッ飛んでる!と、一気にリスペクトしたくなりましたよ!

もちろん、間違ってもキネ旬のオールタイムベストに選出されるような立派なものではないし、ハッキリ言ってくだらない映画なんですけれど、こういうのにも全力投球して自分たちが持ち得るスキルを出し惜しみなく使っている感が素晴らしいじゃありませんか。
結果的に、カルト映画として名を残したそのパフォーマンスは、疑いようのない実力あってのものなのだと思いました。

・・・・・などと、真面目に褒めちぎっていると、実際に鑑賞した方から強烈なクレームが舞い込む恐れがあるので、ここからはB級ホラーの中でも特に気が狂っているとしか思えない、汚バカな内容についても少し触れておきたいと思います。

前述したように、本筋は「謎のワインによる人間溶解の恐怖」なのですが、実際に観ると、それはあくまでも作品世界のひとつの要素でしかないことに気づくことでしょう。
なにしろ、意外とワインを飲む場面が少ない。
ひとたび飲めば、次の瞬間には「うわー」と唸りだして、紫やら黄色やら緑色のゲロになり便所に流れてしまうわけですが、中盤はほとんどワイン事件は忘れ去られます(苦笑)
捜査していた刑事は、何故か殺し屋と戦ったりホームレスのボスにぶち殺されたりで何の役にもたたないし、仲間の刑事や鑑識も出てこなくなっちゃうわで、人間が溶けるなんて重大事件が起きているにもかかわらず、終盤で主人公(たぶん?)のホームレスが気づくまで、この映画が人間溶解ホラーだということをほっぽり出しちゃっています。
しかも、結局は何も解決しやしないし、ワインの正体も不明のままという投げっぱなしジャーマン状態!

そして、その本筋をあざ笑うかのように、ほとんど関係のない場面に尺を使いまくる贅沢仕様(苦笑)!
チープなベトナムの回想場面、スレスレの人種問題発言がドキドキする万引き場面、街のボスの愛人がゾンビみたいなホームレスたちに襲われる場面、そして楽しげにみんなでチンコ・ラグビー(アメフト?)をプレイするトンデモなチン場面・・・・・
これらは全て本筋とは関係なく、なくても全然支障のない場面なのにけっこうな尺を割いているんですな。

何か、当時の世相を反映したテーマを語りたい、職のない人間で溢れたどん底のアメリカを描きたい・・・そんな作りての想いを込めてあるのは想像にかたくないのですがね、だったら反対にワインで人間が溶けるなんていうキワモノの方を捨てちゃえば良いのに、そちらを本筋にもってくるという暴挙がスゴイというか何というか・・・(汗)。
まあ、そもそも人間が溶けないとダメはダメなんですけど!

つまり、脚本がいきあたりばったりなんでしょうな。
いや、そもそも、ちゃんとした脚本なのかどうかも怪しいものだが・・・(苦笑)。
とにかくアメリカの汚い(この場合は目に見える汚さ)部分をあからさまに見せてしまおうというコンセプトは面白いし、驚くべき下品さにまみれたギネス級の最強ゲログソまみれのフィルムからは、まるでハエがたかりそうな臭いがプンプンしてきて鼻がもげそう!
これこそ真の4D(←「スパイキッズ4D」の匂いカードなんて目じゃないぜ(笑))!

♫目の玉をブドウのように食っちまうぞ〜♫などという、人を食ったようなエンディング曲の歌詞も人並外れた超センスが光っていて、最後の最後、隅から隅まで楽しませてくれる怪作中の怪作!
腐りきった人間社会の縮図、そしてリック・ベイカーの「溶解人間」よりもあり得ない溶け方をその目に焼きつけたい!
そんな好事家の諸君にのみ、全力でオススメ致します!


劇場(新宿シネマカリテ)にて