TaiRa

消えた16mmフィルムのTaiRaのレビュー・感想・評価

消えた16mmフィルム(2018年製作の映画)
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ドキュメンタリーであり青春映画でありミステリーでありホラーである。

1992年にシンガポールで少女たちが自主制作映画『シャーカーズ』を撮影した。当時のシンガポールでは自主映画どころか自国制作の映画もほとんど無く、これが公開されたら歴史に残る映画になったかもしれない。だが映画のフィルムは消失した。ジョージという少女たちに映画制作を教え、『シャーカーズ』の監督も務めた謎の男と共に。このドキュメンタリーは『シャーカーズ』の脚本と主演を手掛けたサンディ・タンが、かつて奪われた青春を回顧する映画である。一緒に映画を作った友人らや出演者、関係者らにインタビューして行き過去を振り返る。あの時、私たちに映画を教え、そして奪ったあのジョージという男は何だったのか。このドキュメンタリーは序盤から『シャーカーズ』のフッテージが登場する。ということは映画のフィルムは既に発見されたという事だが、果たしてそれは何処にありどうして発見されたのかも描かれて行く。前半は回顧録として展開し、後半は謎を追うミステリーとして展開する。だが異様な男の正体は追えば追うほど謎に包まれ、とても気味の悪いサイコホラーを見ている様な感覚に陥る。少女たちの作った『シャーカーズ』はシュールな魅力に溢れたフィルムで、これが完成・公開されなかったのは惜しい。サンディ・タンが後に『天才マックスの世界』や『ゴーストワールド』を観た時にショックを受けたのも分かる。最終的には希望も描くので良かった。たとえ青春を奪われても彼女たちの人生はしっかりと輝いている。

このドキュメンタリーの原題がそのまま『シャーカーズ』なのは重要。サンディは20年以上の時を経てやっと『シャーカーズ』を完成させたのだから。
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