風の旅人

映画ドラえもん のび太の月面探査記の風の旅人のレビュー・感想・評価

3.5
定説と異説。
人類の歴史を振り返れば、定説が間違っており、異説が正しかったこともしばしば。
その最たるものが天動説と地動説だろう。
今では天動説を支持する者はほとんどいない。
しかし当時の科学では地動説を証明することができず、合理的な判断として天動説が支持されてきた。
何よりもキリスト教圏では聖書(物語)の記述が天動説の正しさを保証していた。

科学が発達する前、人々は月を見上げてはそこにウサギがいて、餅つきをしていると想像し、月の裏側には文明が築かれ、宇宙人が住んでいると考えた。
人間の想像力は「物語」を生み出し、広く後世に伝わることになった。

本作に登場する「異説クラブメンバーズバッジ」はこのバッジをつけた者に限り、異説の世界が現実になる秘密道具である。
本作が面白いのは、異説の世界でウサギ王国を作ったのび太たちが、定説の世界で月の住人と出会う「コペルニクス的転回」を経験することだ。
定説と異説は互いを補完し合い、現実を形作る。
のび太たちが月を見上げる度にルカたちを思い出すように、我々は『ドラえもん』を観る度に子供時代を思い出す。
風の旅人

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