『蜜蜂と遠雷』(2019)
あるコンテストに残った4人のピアニストのお話です。
石川慶監督は"周辺を描くことによって、中心の《主題》を浮かび上がらせる"という非常に印象的な演出を用いています。これは『桐島、部活辞めるってよ』で用いられた『話題の中心人物に光を当てないことによって、その存在感を強調させる』という演出にすごく似ており、そういった記述は見当たらなかったんですが、もしかして『桐島~』を念頭にしながら作ったんじゃないかなーと邪推して観てました。
この演出は不思議な効果を作品にもたらしていて、出てくる人のエピソードがどれもなんとなく芯を外した他人事のようにそっけなく感じられるんですよね。
その居心地の悪さの正体を探るうちに、それがテーマの中心だったこと気付く、非常にテクニカルな構成になっていると感じました。
そして最後に響き渡る圧巻の演奏は、それまでの変化球が嘘のように直球勝負で見ごたえ(聴きごたえ)ありました。あそこだけでも一見の価値があると思いました。
この物語、一見主人公がトラウマを乗り越えるサクセスストーリーに見えるんですが、そうすると(主人公の心の機微により時間を割く演出になるので)群像劇にする必要ってあんまり無いんですよね。
私はこの物語の主題は斉藤由貴さんが劇中で語っていた『天才を世に出すために必要だった人々のお話(意訳)』なのかな、と思いました。天才になり切れなかった人々が主役のお話。
だからこそ、こういう演出だったのかなーって。
https://youtu.be/b9z6NcS5Wwc