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蜜蜂と遠雷のodamakinyanのレビュー・感想・評価

蜜蜂と遠雷(2019年製作の映画)
4.3
ピアノコンクールの話ということで以前から気になっていました。アマプラで視聴、原作は未読でこれから読もうと思っています。皇なつき先生の漫画は読んでいます。

話がわかりにくいというコメントも見たのですが、そんなことはなかったです。コンクールものということで、往年のエースをねらえ的な試合展開がありました。誰が優勝するかわからないので、そのあたりは熱いドラマだったです。ネタバレになってしまいますが、一回目の予選で落選する方が非常に気の毒だったです。生活者のピアノということで、私のような高齢の人間には、自分の技術はさておき応援したくなるものがありました。奥さんや子供も上京してきて応援していたのに、とてもかわいそうに思えました。

ヒロインの英伝さんは、小さい頃のピアノコンクールで弾けなくなったことがあるというトラウマの持ち主です。そしてそれを小さい頃からのままのピアノへのスタンスで乗り越えようとしていました。彼女が使っている子供の魔法瓶の水筒にそれが現れています。実際の水筒は長年使っていたらあんなにきれいなままではないはず――ということは、英伝さんはその幼い日のそのままに再現した水筒を今使用しているということなのです。そのあたりに彼女の幼年時代に対する思いと心のあやうさが表現されていて、途中審査員の女性からあなたのピアノは必死すぎるから苦手と言われてしまったりします。しかし彼女は臆せず弾き切りました。これはそういった一人の人間の成長のドラマです。

映画の途中でおそらくタルコフスキー作品へのオマージュのようなオブジェによる幻想シーンがあったのがよかったです。ピアノ演奏も撮影の仕方も上品で、いろいろなクラシック作品の演奏が聴けてうれしかったです。特に私はバルトークのピアノ協奏曲の三番が大好きだったので、あんなハイレベルなコンクール曲にはなりにくいと思っていましたが、演奏されて大変よかったです。ピアノが好きな方はぜひ見たらいいと思います。
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