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蜜蜂と遠雷のYACCOのレビュー・感想・評価

蜜蜂と遠雷(2019年製作の映画)
4.0
原作を読んだとき、一度目は一気読み、二度目はその音楽をかけながら読んで堪能した。
上下巻にわたるこの原作をどのように2時間の映画にまとめるのだろうかと思ったが、展開の主軸を下巻のほうにおいて、2次予選のカデンツァ、そして3次予選(最終)を中心に据えた展開で魅せてくれたと思う。

実写化されるにあたり、キャストはもちろんのこと、やはりどんな演奏になるのかはとても楽しみにしていたところで、それに関しては満足できた。
2次予選のカデンツァは本を読んでいるときに想像していたものよりも各々魅力的な楽曲に仕上がっており、なるほどこういう風なのか…と楽しむことができた。個人的に印象的だったのは、松岡桃季演じる高島明石のカデンツァが想像以上に優しくて松岡桃季の演技を合わせてとても良かった。彼は、天才たちのなかどちらかといえば、私たち一般人に近い立ち位置であるキャラクターなので原作を読んだ時もとても印象に残っていたし、今作でもやはり印象に残るキャラクターだったと思う。しかし、これは私が恐らく天才たちとは異なる世界に生きるものだからかもしれない。

そんな天才たち3人もみな良かったと思う。
松岡演じる栄伝亜夜。今作の主役は、間違いなく彼女だった。
ぱっつりと切り揃えられた絹のような艶やかなボブの黒髪をなびかせてピアノを弾き、その間からのぞく視線が時に無機質なようでもあり、時に熱いものがその奥にあるようにも見え、過去に大きなトラウマを抱えた元天才少女を表情で魅せてくれたと思う。
森崎ウィン演じるマサルも、日系三世のジュリアード音楽院在学中の「ジュリアードの王子様」を品よく演じてくれたと思う。マサルの人の好さが感じられとても好感が持てた。
そして、風間塵を演じた新人の鈴鹿央士。ある意味この映画のフックとなるべきキャラクターなのだが、原作よりやや控えめな印象を受けたものの、それは恐らくあえての演出なのだろう。実際にはありえないようなキャラクターだったが、それほど違和感を感じることなく見れた。栄伝亜夜との「月の光」の連弾も良かった。

やはりこの話が実写化になるには音楽がとても大切だと思うのだが、それがとても丁寧に作りこまれていたように思う。それと役者たちの演技の相乗効果でとても良い映画に仕上がっていたと思う。
原作では、言葉による音の表現に本当に圧倒された。コンテスタント一人ひとりの描写はもちろんのこと、それぞれの音色まで言葉で表現することが可能なのかと思ったものだ。映画では、2時間という限られた時間だったので、個々の生い立ちや背景についてまではあまり描かれてはいなかったものの、ひとりひとりの背景が感じられるような演奏をこの映画は視覚と聴覚で見せてくれたと思う。

映画館で見る価値のある映画だと思う。原作やクラシック音楽が好きな人にはおススメ。
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