Adachi

蜜蜂と遠雷のAdachiのレビュー・感想・評価

蜜蜂と遠雷(2019年製作の映画)
4.3
「ジョン・ウィック」を鑑賞するつもりでしたが、時間が合わずこちらを選びました。
結論から言うと、もうめちゃくちゃ良い映画だったし、めちゃくちゃ感動しました。

この映画は天才達の話ではあるのですが、ただただ天才を天才として描くわけではなく、彼らが目指す境地や葛藤を、ひたすら「音楽」で表現し、昇華し、共鳴し、混ざり合っていくような展開の美しさに心から感動しました。

映画は、可視の情報から不可視の情景や心情を観客側に想像させることのできるものであり、本作の凄い点は、その情景や心情をナレーションや演奏者の心情吐露によるセリフで下手に言語化することなく、音楽を奏でている様子とその音色から、それらが表現する世界や風景を観客のイメージにとても美しく伝えようとしてくれるわけです。

個人的に小説を読んだ後や、映画を観た後に、そのタイトルの意味を考えるのが好きです。
例えば、突如現れた異端的な天才青年「風間 塵」を蜜蜂とするならば、植物から植物へ花粉を媒介し、受粉させるかのように、彼を中心に天才同士が、真の音楽を導き出し、まさにその才能の花を開花させるという点が本作の肝となり、その才能の開花の瞬間を音色と曲だけで表現しているから凄い。

特に好きな場面が、ヴェートーベンの「月光」から始まり、ドビュッシーの「月の光」に終わるピアノ工房のシーン。
月明かりの下で、栄伝亜夜と風間塵の二人がピアノを演奏し合う場面は本当鳥肌が立つほど綺麗な一幕だった。(個人的に【ペーパー・ムーン】という映画がオールタイムベスト級に好きな作品なので「it's only a paper moon」を演奏してくれて、ニヤニヤが止まらなかった)
その境地を目指す人にしかできない、音と音のコミュニケーションの対話。あの場面をもう一度見るために劇場に足を運びたいほど。

俳優陣みんな素晴らしいんですが、特に松岡茉優が素晴らしすぎた。凄すぎる。彼女の表情や身体の仕草で圧倒的に音楽を体現するラストの演奏に涙が止まらなかった。
ラストの表情も素晴らしく、主人公4人のこれからを想像したくなるような、とても素敵な余韻の残し方だった。
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