バルバワ

蜜蜂と遠雷のバルバワのレビュー・感想・評価

蜜蜂と遠雷(2019年製作の映画)
4.2
《映画館で観たかったのにシリーズ》
今作は公開当初から評価が高くて月封切りにも関わらず年を跨いで上映されていたのですがジャッキー・チェン主演の『魔法拳 ナイト・オブ・シャドー』を選び観逃してしまった私。もうバカバカバカバカ!←怖いテンション
というわけでレンタルされたので速攻鑑賞しました!

いやぁ、インテリによるスポ根!

あらすじはピアノのコンテストに全てを懸ける四人の物語!的な感じです。

【やはり天才か】
今作のメインキャラクターは四人。それぞれタイプの違うピアニストでして、軽く紹介いたします。因みに各キャラクターの演奏はあくまで私の個人的な印象なので悪しからず。

①栄伝 亜夜(以下、亜夜):母の死をきっかけにピアノから遠ざかっていた基本うつむきがちの女の子。演奏は大胆不敵でどこか影がある天才ピアニスト。

②風間 塵(以下、塵):音大出身でもなければコンテストも一切出ていなかった天真爛漫な青年。演奏は野生的でパワフルなナチュラルボーン天才ピアニスト。

③マサル・カルロス・レヴィ・アナトール(以下、マサル):名前が長い。世界有数の音楽院の期待の星。演奏はスタイリッシュだけど型破りでもある天才ピアニスト。

④高島 明石(以下、明石):サラリーマンで良き夫で良き父親。演奏は地に足をつき、根を張った感じの天才ピアニスト。

…とまあ、どこかの忍者漫画のように天才だらけなのです。この手の所謂"天才の物語"は「そもそも感覚が違うからな…」と、彼らを特別視して感情移入しにくくなりがちです。
しかし今作は彼らを等身大の悩める若者として描いており、自分の才能やピアノへの情熱、大人達からの風当たりに対して思い悩む姿は「なんだ、普通の人じゃん!トモダチニナロー( ´∀`)」と馴れ馴れしい親近感を覚えました。塵がピアノの練習で指先から血を滲ませている姿なんてほとんどスポ根。
インテリで天才だって根性は大事なんですよ!←化石のような価値観

【徹頭徹尾音楽】
音楽が物語の主軸なので登場人物の心境などもピアノの演奏や些細な所作で語られており、特に第二次予選の自分で作曲するシーンではメイン四人の性格をよく表していたようでした。とにかく音楽でストーリーテリングしていく手腕の鮮やかさには思わずうっとりですよ!

【音楽】
メイン四人の内の三人は子どもです。年齢も若いということもありますが、そういうことじゃなくて…穢れがないって感じです。まあ、塵は絵に描いたような純粋少年なので置いておきますが、亜夜とマサルも些細な所作や態度、二人が持っているあるアイテムで中身は子どもであることがわかります。
しかし、今作に限っては"子ども"は決して未熟という意味ではないと思います。私の恩師が「子どもと大人の最大の違いは、子どもは行動と目的がイコールなんだよ。」と、話してくれたことがあります。この言葉を今作に置き換えると"コンテストで良い成績を獲る為にピアノを弾く"のではなく"ピアノを弾きたいからピアノを弾く"ことこそが音楽の本質、音を楽しむということに近づくのではないでしょうか。つまり、ピアニストに限らず表現者は"子ども"である方が優れた作品を生み出しやすいのかもしれません。

【好きこそ物の…】
前述したピアニストとして子どもであることが本質に近づきやすいと私の中で結論づけましたが、ではメイン四人のなかで家庭も仕事もあり大人である明石はピアニストとしてはどうなのかということも触れておきたいと思います。

彼も私からしたら十分天才なのですが、いかんせん他の三人が前述した理由で飛び抜けて天才なので演奏者としてはなかなか影が薄く、どうしても哀愁を感じざる得ません。(あと哀愁と言えば、斉藤由貴さん演じるコンテストの審査員!)

しかし、彼は他の三人に負けないものを持っています。それはピアノが好きだということです。

だからこそ彼の演奏は胸に来るのではないでしょうか。そして、ちゃんと彼にも花を持たせてくれるのも非常にニクい演出ですね!

【黒い馬】
作中、時折ある人物の脳裏に度々登場する黒い馬。この馬の意味がちんぷんかんぷんだったので調べてみると黒い馬は何物にも染まらない頑固さや災難を現すそうです。
ここからは私の中での推論ですが、この人物が覚醒した後に身に付ける衣装、悪魔のような微笑み、そして覚醒するきっかけを与えた人物が音楽界の重鎮に何と言われていたかを鑑みた末…私はこの人物がこの先ピアノの為にのみ生き、その演奏は観客にはギフト与え、同じ舞台に立つ者には災厄のような存在になると思いました。
つまり、黒い馬はその人物のピアノの技術を突き詰める、ある種の頑固さを持ち、他のピアニストにとって同じ舞台に立つこと自体が災難になるという予見なのではないでしょうか。

【最後に】
色々なことを賢しらぶって読みにくい駄文を書き連ねてきましたが、超絶技巧な演奏を観て聴くだけで楽しい気分になります!そしてピアノを弾くことを通じて他者と喜びを共感し、心の空白を埋めていく自己カウンセリング映画としても素晴らしかったです。
まだまだいつも通りの日常は戻って来ませんが、優れた作品に触れて心の鋭気を養うのも良いのではないでしょうか。

しかし、映画館で観たかったし聴きたかった~!
バルバワ

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