マカ坊

ちいさな独裁者のマカ坊のレビュー・感想・評価

ちいさな独裁者(2017年製作の映画)
3.9
敗戦間近のドイツ。1人の脱走兵ヴィリー・ヘロルトが偶然手にした、文字通り「身の丈に合わない制服」=権威を身にまとい、ハッタリひとつで生にしがみついてゆく。

当時20歳そこそこのごく普通の青年が、いくら将校の軍服を着ているからといってこうも上手く立ち回れるもんかと思ったが、どうやら彼が手にした軍服は、当時のドイツ国防軍の中でも一目置かれた空軍の大尉服だったとの事で、その辺りも彼の大それたハッタリに信憑性をもたらしていたようだ。

映画としての話運びも周到で、序盤の略奪シーンを観客に共有させる事で、観る者を半ば共犯者的な立場で物語に参加させ、主人公の嘘がいつ露見するかというスリルが他人事にならないよう構成されている。それでいて中盤から後半にかけては「あ、こいつ調子こき始めたな」と誰もが感じるほどのヘロルトの狂気じみた行動を強調し、分かりやすくその後の大尉殿の運命を暗示させ、観客を現実世界へお見送りするための後片付けを始める。

そしてあのエンディングだ。

ゲリラ的に撮影されたという、エンドロールの気の利いたあの演出は、この第二次大戦期の破滅的な珍事を描いた映画が現代と地続きであるということを非常に即物的に観客に訴えかける。
鑑賞後「彼らは私たちで、私たちは彼らだ」という監督のコメントが脳内でリフレインする中、映画館へ脱走したはずの観客は皆、現実という名の憲兵に連れられ残酷な未来へと拘留される。

ハリウッド的エンタメ映画のイメージが強いロベルト・シュヴェンケ監督がその娯楽性を活かしつつ、人間の本質に鋭く迫った本作は、確実に今観られるべき映画のひとつだ。

それにしても終盤の、直接的な破滅の原因になるあのへべれけ乱痴気パーティシーン。あの年齢の元気な若者があのおっぱいみたら、そらああいう行動になるわなぁ…
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