あでゆ

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のあでゆのレビュー・感想・評価

3.7
◆Story
85歳の誕生日を迎えた世界的ミステリー作家のハーラン・スロンビーが、その翌日に遺体で見つかる。名探偵のブノワ・ブランは、匿名の依頼を受けて刑事と一緒に屋敷に出向く。ブランは殺人ではないかと考え、騒然とする家族を尻目に捜査を始める。

◆Review
『スターウォーズ 最後のジェダイ』を手がけたライアン・ジョンソンによるアガサ・クリスティ風ミステリー。一度はどこかで見たことがある豪華俳優陣を使って大掛かりなミステリーを行うさまはこの年代だとまさに『オリエント急行殺人事件』以来となるだろう。
ただし、ただアガサ・クリスティをトレースするだけではなく、本作には脚本も執筆したライアン・ジョンソンらしい仕掛けが随所に仕込まれている。

冒頭、登場人物達に事情聴取する形で事件の説明とキャラクターのアリバイを明かしていくのだが、そこでは複数のキャラクターの聴取を1質問ごとに横断する形でテンポよく人物を切り替えながら進めていく。
ここではひとつの質問に対して複数の人間が解答を行うが、場合によって都合の悪い人間は他の人とは違う答え、つまり嘘を交えるなどキャラクターごとに様々な動きを与えることで、それぞれの立場や背景、性格を明るみにして行くのも効果的だ。
第一幕では複雑な人間関係と事件当時の様子を整理しながら、その後行われる遺産相続問題なども提示し、ミステリーとしての全体像を固めていく。

ところが、第二幕では「古畑任三郎」のように犯人が明かされてしまい、犯人が捜査に協力を行いながらも自らの証拠を隠滅していくサスペンスへとジャンルを変化させる。
これはまるで『LOOPER』が前半のSFから非常に内省的な話へと転換していった時の仕掛けそのもので、ライアンジョンソンらしい仕掛けといえるのだ。

とはいえ、これがここからなかなか退屈なのだ。なにしろ真犯人は第二幕で明かされる人物ではないことが明らかだからだ。なぜなら、本作はアガサ・クリスティのフォーマットに則っているからである。
それにここで犯人として描かれる人物の立ち振る舞いがあまりにもお粗末だし、伏線によってダニエル・クレイグ演じる探偵ブノワ・ブランに初めからバレていることがわかっているのだ。そこまで気がつくと真犯人が自ずと見えてくる。
そうは言っても解決編に近づくと新しくわかることもあり、ある程度の爽快感があるようには作られているため、最後まで観る価値はあるだろう。

『ブレードランナー2049』のアナ・デ・アルマスが非常に可愛く、彼女を見ているだけでも本作は十分だ。
とは言ったものの、彼女は「嘘をつくと吐いてしまう」というびっくりな設定が課されていて、劇中でも何度もそのことが言及されるのだが、思ったよりもその癖がコントロール可能であり、我慢することで窮地を回避するということが何度か行われるのを見ると、あまりにもご都合主義な設定だとも思ってしまう。
そして本作は明らかにアメリカの「移民問題」をベースにしていて、彼女の演じる看護師マルタもここに関わってくるのだが、オチを踏まえてみるとそんなことをするからまた対立が生まれるのだろうという気になってしまうので、あまりに戯画化してしまうのも考えものだと思ってしまった。
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