てっぺい

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のてっぺいのレビュー・感想・評価

4.0
【立体的ミステリー】
“真実の中心に穴がある、まるでドーナツのよう”と例え、謎解きを立体的に可視化してくれる脚本の妙。たくさん笑えて謎解きも面白い、大物俳優のあんなシーンも見られ、映像表現の工夫も細やか。点数のチャート表なら綺麗な多角形になる一本。
◆概要
第92回アカデミー賞脚本賞ノミネート作品。監督・脚本は「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」のライアン・ジョンソン。出演は「007」シリーズのダニエル・クレイグ、「アベンジャーズ」シリーズのクリス・エバンス、「ブレードランナー 2049」のアナ・デ・アルマスら。
◆ストーリー
世界的ミステリー作家ハーラン・スロンビーの誕生日パーティーで、彼が遺体となって発見される。屋敷にいた全員が事件の第一容疑者となったことから、裕福なハーラン家族の裏側に隠れたさまざまな人間関係があぶりだされていく。
◆感想
終始コメディタッチで笑わせてくれつつ、謎解きの立体化が秀逸。2時間ミステリードラマに終わらせない映画表現、そして役者の豪華さ。よくできた映画を見た、そんな多幸感に包まれる。
◆コメディタッチ
映画を通して何度も吹き出す、多彩なコメディ要素で見やすい。人前で平気で痴話げんかを始める家族に、“EAT SHIT”を連発するランサム笑。劇中何度ゲロ吐くんだというマルタも面白かった。そしてブラン探偵がキザに決める台詞に“盛り上がってるところすまないが”とスカす警部。派手なカーチェイスで逃げ切った先に待つパトカー。普通の映画なら拍手したくなる決まりのシーンをあえて揶揄するようで、小刻みでテンポも良く、映画に対して斜に構え、見ているこちらが手玉に取られているよう。

◆以下ネタバレ

◆立体化
脚本が芸術的で立体的。マルタにとっては自分の過失で人を死に追いやったことが全て。それを一つの円のような真実、とブラン探偵が称するシーンでは、しかし事実はドーナツのように、中心に穴が空いていると語る。この、マルタの真実の白円を、その中心で操る黒い人物がいる事を立体的に例える、そんな脚本の妙があったと思う。ラストの大量のナイフの装飾もドーナツ状だったので、他にも気づいていないドーナツの映像表現がこの映画には散りばめられていたのでは。単にランサムが犯人である展開まではよくあるミステリーだけど、そんな可視化する脚本が本作の素晴らしいところ。
◆映画表現
冒頭でマルタが飲むコーヒーのマグカップには“私の家、私のルール、私のコーヒー”のデザイン。ラストシーンは、ハーラン屋敷の外に居る全家族が振り返ると、屋敷の二階から見下ろし、そのマグカップでおそらくコーヒーを飲むマルタ。私利私欲に奔走した結果、財産を全て失った家族と、“私のルール(良心)”に従い、私の家と財産を手に入れたマルタとの高低差をつけた画作りであり、まさにこの映画のオーラスにふさわしいカットだった。

007のシリアスなイメージのダニエル・クレイグがおしゃべり好きでお茶目な探偵に、アベンジャーヒーローなクリス・エヴァンスが犯人役に(ゲロまみれにまで笑)、ファンには出演者のそんなギャップも楽しめる本作。ゲロ吐きまくりのアナ・デ・アルマスも良かった笑。そう考えると本当に見どころ盛り沢山。
◆トリビア
○米映画批評サイトのRotten Tomatoesでは、批評家/観客共に満足度96%(https://longride.jp/knivesout-movie/)。
○ジョンソン監督は本作を作るに当たって『オリエント急行殺人事件』などアガサ・クリスティーの推理小説やミュージカルを参考にした(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密)。
〇弁護士役のフランク・オズは、スター・ウォーズのヨーダ役の俳優(https://theriver.jp/knives-out-oz-clip/)。

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