なべ

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のなべのレビュー・感想・評価

3.9
すっかり忘れてた、こういうジャンルの映画のこと。近頃はシャーロック・ホームズさえアクション重視だったから。これは、オリエント急行殺人事件とかナイル殺人事件とか、いわゆるアガサ・クリスティな本格劇場型推理映画。オールスター出演で出演者全員が容疑者ってやつ。
ダニエル・クレイグが出ているからなのかオールドスタイルの英国ミステリーの佇まい。いや、アメリカ映画なんだけどさ。
そんなクラシカルな雰囲気ながら、ラストで探偵が延々謎解きをするあの退屈なフーダニットではない。事件の謎は前半で明らかになり、そこからはいかに探偵を出し抜くかに変化。さらに謎には裏があり、齟齬があり、新たなアクシデントも起きるという飽きのこない展開。しかも、容疑者の1人は絶対に嘘がつけない体質なんて縛りも設けているのだ。嘘をつくと吐いてしまうという映画的表現が笑えるw
ほんとこういうキテレツな設定は英国っぽいなと思うんだけど、アメリカ映画なんだなあ。監督は何を隠そうあの赤いスター・ウォーズの戦犯ライアン・ジョンソンだ。英雄ルークを矮小化した罪は大きいが、あのかわいこちゃん(大好き!)なアナ・デ・アルマスにゲロを吐かせるのは賞賛に値する。ここだったのね、あなたが本領を発揮するのは!
しかし、ダニエル・クレイグってそんなに探偵っぽいかね? ドラゴンタトゥーの女でも探偵やってたし(はっ!クリストファー・プラマーもドラゴンタトゥーに出てたやん!この共演に全然気づいてなかったとは)。決して悪くはないんだけど、ダニエル・クレイグよりもっとハマる役者が他にいそうな気がする。誰がいいかなあ…。

他にもハロウィンで屈強な婆ちゃんを演じてたジェイミー・リー・カーティスは本来のシュッとした美人に戻り、顔がやかましいトニ・コレットの豊かな表情筋(ヘレディタリーの忌まわし気分が味わえる!)など見どころもいっぱい。
なかでも容疑者の1人、粗野な問題児をクリス・エヴァンスが演じてるんだけど、なるほど誠実を絵に書いたキャプテンアメリカをこんなふうに使うかって感心した。嫌な奴が実はいい奴なんじゃね?ってのは観客全員が思ってたと思う。そういう意味ではクリス・エヴァンスはいいキャスティングだとは思うが、彼にはちょっと難しい役だったかも。矛盾したキャラクターを演じ切れてなかった(ぶっちゃけヘタだった)。
今どきの血飛沫も内臓ぐちゃぐちゃも爆発も激しいカーチェイス(地味なカーチェイスはあるよ)もガンアクションもないけど、推理する楽しさや予想が裏切られる快感がいいあんばいで味わえる良作だった。裏切り方もそんなアホな!ってバカバカしいものではなかったし。昔のアガサクリスティ映画が好きだったという方に強くおすすめします。

しかしこの邦題はなんとかならんかね。「名探偵と刃の館の秘密」ってなんだこのハリーポッターみたいな副題は。そんな感じはまったくないから!これから観る人は邦題のことは忘れてね。

本作のダニエル・クレイグのブノワ・ブランをみて007の復習をせねば!と帰ってきてから慰めの報酬とスカイフォールを続けて観させる火種感もあり。
なべ

なべ