朝田

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密の朝田のレビュー・感想・評価

-
古典的なフィルム・ノワールを題材にしたミステリー作品。まず大前提としてミステリーというジャンルは、映画と親和性が低いと考えている。トリックの構造が徐々に明らかになっていく中で、それを説明する台詞に依存した造りになってしまうからだ。ショットの連なりであり、アクションの連なりでもある映画とは正反対。その認識は本作を見ても変わらない。その上、これ見よがしに伏線である事を主張するようにアップで細部を捉えたカットや、表情にズームしていくカメラワークなど過剰な演出も目立つ。しかし、映画的な興奮に欠けているとは言え、つまらない訳ではない。むしろ今作は問答無用で楽しい。それは精密な脚本に加え、豪華な役者たちが、皆それぞれ好演を披露しているからだ。特に、過去最高のコミカルさを記録したであろうダニエル・クレイグとアナ・デ・アルマスのコンビネーションはいつまでも見ていたくなる。デフォルメされたキャラクター造形ではあるが、二人のスター性によって魅力的なキャラクターに消化されている。過剰な演出も目立つとは言え、画面的にも刮目すべき所はある。古典的なノワールへのリスペクトが、陰影を極めて濃くしたライティングによって表面されており、特に暗闇の中から、クレイグの顔の一部だけが浮かび上がるショットは、キャロル・リード「第三の男」を想わせるインパクトを持っていて強く印象に残った。舞台となる富豪の屋敷内も、インテリアや家具を含め細部まで徹底されているからこそ、作品全体の高級感と説得力に繋がっている。ライアン・ジョンソンがいかに俳優から信頼されているかが判る快作。
朝田

朝田