Masato

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のMasatoのレビュー・感想・評価

4.5

正統派でありながら移民問題についても語る映画

(一番下に移民問題についてのネタバレあります)

スターウォーズ 最後のジェダイで世間を騒がせたライアンジョンソン監督最新作。彼と言えば、SWとLooperのイメージが強く、てっきりSF専門の人かと思いきや、今回は真逆と言ってもいいほど、アガサ・クリスティ感のある地に足の付きすぎた推理サスペンス・ミステリーだった。

作品自体の構成は往年のサスペンスミステリーよろしくで、意外性はあまりない。しかし、圧倒的に面白い脚本と演出でかなり面白かった。

ただのエルキュールポアロ的な探偵が一本道に探偵として解決していく物語かと思いきや、序盤早々に大きなツイストを入れてきて、韓国映画みたいにジャンルそのものが大きく変わることはないが、ジャンル内には収まりつつも、予想の斜め上を行く展開に。こうした、面白いユニークな展開はライアンジョンソンらしい。

そして、度々挟まるのがユーモアな描写。ちょこちょこ笑えるシーンがあり、家族間でのいがみ合いや、醜い争いが笑える。ベラベラ喋りだすお決まりのミステリーの演出や舞台となる屋敷を、警部補やら探偵やらがメタ的にツッコんだりするのも面白い。あとは、アナデアルマス扮するマルタのドタバタ加減が面白かった。

屋敷をシンボリックな舞台にしていて、その他のロケーションの情報は徹底的に入れないあたりも、まあ舞台劇的サスペンスミステリーとしては王道ではあるが、面白い。王道のエッセンスを取り入れながら、脚本に意外性を持たせて、ちゃんと面白い娯楽作として完成させているあたりのクオリティの高さは最高。

基本的にはネタバレ厳禁な映画なので、詳しくは語れない。見に行くべし。

キャストに関して、クリエヴァがどう見ても性格悪くて、キャップのときとは大きく違う。役作りは最高に上手い。その他のキャスト陣も豪華絢爛。アナデアルマスはやはり美人。
ジョセフゴードンレヴィット出てたらしいけど、どこにいた!?




移民問題について、以下ネタバレ↓




この物語の大きなテーマとして、現代アメリカの問題を入れ込んできているのも面白かった。それは、看護師のアナデアルマスは不法移民だということ。不法移民について家族が政治討論するシーンがあることから、確実である。

この家族の屋敷は「アメリカ」のメタファーである。そして、看護師のマルタは「訪問看護協会を介さずに直接雇用された」と説明されている。つまり、「国家の正式な登録をせずに直接やってきた」という不法移民のメタファーになる。

この映画は、マルタが犯人ではなく、家族の中の一人が犯人であったことが判明する。つまり、アメリカはアメリカ国民自らの手によって不法移民問題を助長し、首を絞めているということを言っている。これは事実であり、メキシコからやってくる不法移民は、中米3カ国からやってくる子連れの家族が殆どだ。

その国での治安悪化などが不法移民の原因とされているが、その治安悪化を作ったのは、自らのエルサルバドルの内戦干渉でアメリカ国内に生み出されたギャング(MS-13)を、そのまま強制送還させたアメリカである。つまり、アメリカの不法移民は、自業自得の結果なのである。

遺産相続をマルタにすべて託すというシーンで、家族たちがマルタを家族同様と言い張っていたくせに、途端に態度を変えて怒りを顕にする。これこそ、アメリカファーストと言い張っているトランプとその支持者のメタファーであり、移民排斥運動そのものである。また、家族の中で一番若い男の子がネトウヨだということも、今のアメリカでは、ネットを中心に「オルタナ右翼」という極右派が増えてきており、その結果がシャーロッツビルの事件である。

最後に、マルタが追い出された家族を二階から見下ろすシーンが見事に痛快。コップにはMY HOUSEという文字。そうやって、アメリカは外敵と称してトランプのポピュリズムにのっかり、内側(政府)を見ないうちに、内側から崩壊していって、お前らは追放されるぞって言っているのだろうな。劇中での「内側」は、今回の事件は勿論のこと、さしずめ不倫とか次男の経営問題とか、トニコレ扮するジョニと娘の学費の問題とかもかな。

こうしてみると、物語全体が移民問題について語っている。まさに、表裏一体となって王道ミステリーサスペンスにベッタリとくっついたままこうした政治的テーマも語るという素晴らしさ。これはオスカー脚本賞も間違いなし。素晴らしすぎる。最後のジェダイでレイやスカイウォーカー家の血の運命をアンチテーゼした彼らしいメッセージではあるね。
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