さすらいの用心棒

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のさすらいの用心棒のレビュー・感想・評価

4.0
ミステリ作家の遺体が発見される。自殺だと思われた彼の死はその後、名探偵ブラン(ダニエル・クレイグ)の登場によって一変する────


久しく現れなかった本格ミステリ映画の再来に否応なしに期待が膨れ上がったけれど、その期待に充分に応えてくれる快作だった。これは面白い。

ゴシック調の邸宅。殺害されたミステリ作家。動機がある一族。意外な遺言書。名探偵の登場────古典ミステリのお約束をこれでもかと詰め込みながら、現代的に洗練された演出と観客の意表を突く展開、それらを可能にする良質な脚本のお陰で飽きずに楽しむことができた。ストーリーに踊らされながらも、推理を楽しめる。ミステリに求めるものを見ることができた。

監督が参考にしたという70~80年代の数多くのクリスティ映画からこういう作品があまりつくられなくなった理由として、登場人物の証言を撮るために画がほとんど動かず、言葉との親和性が高いミステリと、動的な要素を求める映像の相性が本質的にミスマッチであり、映画化する難易度が高いと考えられていることが大きいと思う。だけど、そういった課題もシナリオの段階からきちんと克服し、ユーモラスな語り口に乗せて映像とミステリを有機的に結び付けている点も、個人的には評価が高い。

キャラの多さに圧倒されそうになったけど、それぞれきちんと色分けされていて、探偵役もダニエル・クレイグなのにどこか間が抜けていて、愛嬌があって好きになってしまう。決めるところでビシッと決めるところも良い。

監督は『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』のライアン・ジョンソン。このエピソード8でファンからの不評を買っているが、個人的には新シリーズではいちばん好きな作品だったし、観客の予想を裏切るやとぼけた笑いは、確実に本作でも活かされている。同じ探偵での続編の製作が決定したらしいが、とても楽しみだ。