〈伝統の破壊者ライアン・ジョンソンが、今度はアガサ・クリスティにハッタリのナイフを突きつけた‼︎〉
ベタベタな音楽・豪邸・探偵・容疑者でミステリー映画の雰囲気をつくりだし、それをコメディで崩す崩す。本作は基本的には古きよきミステリー作品へのリスペクトに満ちているが、要所要所でそのミステリーらしさを軽く突っついてみせるのだ。
たとえば、「嘘をついたらゲロを吐く」という設定で探偵の腕の見せ所をなきものにしたこと。開始30分で(仮の)真犯人がわかり、倒叙形式へと移行したこと。犯人としての役割から逸脱してまで目の前の人間を救わせたこと。ライアン・ジョンソンは2年前の前科のせいで「伝統を崩す者」という穿ったレッテルが私の中に根づいてしまっており、“チェスではなく囲碁”というディテールにすら彼の「崩し」の意図を訝しんでしまう。
ライトセーバーでルーカスをグサリと刺したときに比べれば丸くはなっているものの、本作でもライアン・ジョンソンの姿勢が大きく変わることはない。ライトセーバーからおもちゃのナイフに持ち替えて、昔ながらの殺人ミステリーをいじってみせたのだ。
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トニ・コレット、マイケル・シャノンら曲者が思いのほか跳ねず、収まりのいいガヤにとどまってしまったのは大いに残念であったが、見せ場のなかったクレイグやエヴァンスが後半から輝いていったところは称賛すべきだろう。
また、部外者と家族の逆転を、移民とWASP、引いてはアメリカという国家そのものと重ねたあたりも秀逸。「遺産争い」というコテコテの設定がうまく飛躍し、『パラサイト』と繋がった。