はる

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のはるのレビュー・感想・評価

4.2
ダニエル・クレイグが真相解明に挑む役ということで、やはりどうしても『ドラゴン・タトゥーの女』のことを思い出してしまう。しかし今作のクレイグは軽妙さと若干のクセの強さも感じさせる演技を見せている。それは「探偵」役としての既存のイメージを踏襲しているものだし、そういう彼が登場することでどのような作品であるのかが提示された。

実際、今作はミステリーの王道を行くような雰囲気を漂わせている。古式ゆかしい屋敷での資産家の死と遺産をめぐる確執など「いかにも」な要素が散りばめられていて、過去のいくつかの名作を想起させる。だが今作が評価されるのはもちろん「それだけじゃない」ということだ。そして謎解き(Who done it?)だけじゃない部分での構成が現代社会のことを考えさせるので、今語られることの意味も備えている。オリジナルの脚本であるからここまで出来たと言えるだろうし、またそれを成し得たライアン・ジョンソンの才能には驚く。

パンフレットにあった出演者のコメントも、その多くがライアンの監督としての力量を称えていて「演じやすい」ということも言及している。そうしたことは作品の出来に直結しているのだろうし、配役含めてとても緻密に練られているということも強く感じた。全体をコントロールして、やや長尺になったことも正しい選択だったと思う。
ちなみに近くの座席で鑑賞していた若者は終盤で「すげえ」を連発していたが(なんと微笑ましい)、今までこうしたミステリ作品に触れてこなかった層にこのジャンルの魅力を知らしめることにも成功しているのでは。

さてちょっとネタバレ。
やはりアナ・デ・アルマスのことは触れておきたい。『ブレードランナー 2049』でのAIビジュアルを担当していて印象的だったが、今作でも「従順さ」という意味では重なっていると思うが、とりあえず今作に限ってはマルタは自身の出自や家族のことがあるので、そう振る舞うことが処世術と言える。加えて「嘘をつけない体質」というユニークな要素を与えられているので、虚虚実実の物語の中において観客には「確実な」存在だ。
そしてその構図はあの屋敷においてもそうであるので、ハーラン・スロンビーが彼女に遺産を託すのは、フィクションを生業にしてきた彼の老境で至った心情なのだろう。
ハーランもまさかあのような流れで遺志を告げることになるとは思っていなかっただろうが、マルタにとっては針の筵でしかない。その中でブノワの助けを得ながら自我に目覚めていくという流れは、ブレランの役柄を思うと余計にグッとくるものだ。

ブノワとマルタの関係性も当初は彼女に対して「ワトソン」と呼んだりして「そう来たか」とニヤリとするのだけど、遺言が発表されてからは予想外の方向へ進み、2人は一度離れてしまうのだがブノワは終始彼女を信じていたし、絆を感じさせるような見せ方にもなった。続編がどうやら決まったそうなので、このコンビがまた見られるのかどうか。富豪のワトソンということになりそうだが。とは言え、2人の共演はすぐに『007』の最新作で観られるようで、そのキャスティングはクレイグも今作の彼女との共演を快く思ったからでは。

やはり痛快なのは移民のマルタが屋敷のバルコニーに出て、屋敷の外にいるスロンビー家の面々を見下ろすシーン。誠実であることがあの結末に至る要因であったので、そのメッセージはやや青臭くも素晴らしいものだと感じた。

クリス・エヴァンスのランサムももちろん良かったし、犬が鳴いた辺りで怪しんでいたが「この配役であの役割」という仕掛けも楽しい。

タイトルについてはやはりラストのアレだろう。そこで観客は「そういうことか」と思うし、その先の顛末に胸をなでおろすことにもなった。上手い。
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