えびちゃん

象は静かに座っているのえびちゃんのレビュー・感想・評価

象は静かに座っている(2018年製作の映画)
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惜しいな、本当に惜しいな。厳しく美しい画、光と影、静謐で息苦しい長回し。でももうフー・ボー監督の作品を観ることが出来ないなんて余りにも惜しい。いくつかのカットは計算された光と影の美しさに絶句した。この映画に美しいものなんて一切映らないのに。きっともう、こんなに気持ちを揺さぶる画を目の当たりにすることは今後そうないだろうと思うほどの美しさだった。
希望を持つ余地もなく荒みきった人生は、他人のせいにするしか心のやり場がない。見捨てられた絶望のこの町で誰もがそうして生きながらえている。
少しの感情移入も許さない、打ち捨てられた人間模様が厳しく切り取られていた。ほんの少しの希望も持たせない、希望にも満たない、それでもすがるように目指した坐する象の象徴したものは、監督の今の中国への願いなのではないだろうか。自分のことだけでいっぱいいっぱい。少しでも他者にまなざしを向けることができたなら、社会は変わるはずなのに。
生きていれば、監督は同い年。作品をもっと観たかった。これからも同じ時代を生きたかったよ。
体力及び気力を凄まじく削り取られてしまった。閉塞感と張り詰めた人間関係、かすかな寛容。決してお勧めできないが、一方で強くお勧めしたい。
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