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象は静かに座っているのslowのレビュー・感想・評価

象は静かに座っている(2018年製作の映画)
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最初に転がった石のことを、そこが坂道であるということを、それが凶器に変わることを、誰もが暗に知りながら、その行き着く先の想像を止め、災難を目の前の誰かに取り憑けることでしか日々を凌げず、疎通を拒んだわたしたちは、ここではないどこかを夢見て、不条理に満ちた世界を呪い、仔犬のような目で猛々しく吠え散らかしては、まやかしの神通力によって齎される結末を、もはや非情とも思わない感覚と満面の笑みで迎え入れざるを得ない。そして、またひとつ、石が転がり始める。

テオ・アンゲロプロスの列車が、ホウ・シャオシェンの時流を走る。社会を覆う鬱屈とした空気にはエドワード・ヤンのあれを感じるし、反復と中国進行形の闇はジャ・ジャンクーのようでもあった。カメラワークは監督が師と仰ぐタル・ベーラというより、その弟子ネメシュ・ラースローそのもので、ずっと主人公の後頭部を眺め続けるような映像はやはりちょっと苦手だった(これは好みの問題)。それでも好きな要素に溢れ、キャッチコピーのように消費されてしまっている監督の死にまで想いを馳せると、これは嫌いにはなれなかったし、頭から尾まで観終えると、その死を惜しまずにはいられなくなった。
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