chiakihayashi

ワンダーランドのchiakihayashiのネタバレレビュー・内容・結末

ワンダーランド(2017年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

@フィンランド映画祭2018@ユーロスペース

まもなく50歳というヒロインは、夫が年若い女と暮らすために出て行き、娘は遠くポルトガルにいるので、クリスマス休暇を初めてひとりで過ごすことに。長年の親友にその淋しさ、惨めさをグチったら、彼女は急遽、農場での民泊というクリスマス・プランを見つけてきて、一緒に菜食主義者のカップルが自給自足を目指して移住したという片田舎の農家へ。そこで出会ったのがやはり、クリスマスをひとりで過ごしたくないとやって来たいささかクタビレた中年男。

さりながらこのオトコ、ギコチナイながらもけっこう果敢にヒロインにアプローチ、初めはトンデモナイという顔をしていたヒロインも、エイ!とばかりにベッドイン。「一夜限りの関係よ」と言っていたくせに、翌日も昼間からふたりでベッドでいい感じ(笑)。

シングルの親友は昔からそちらの方はお盛んというタイプで、思いがけないヒロインの行動に対する反応もサバケたもの。ところがそこへ、ヒロインの元夫が「彼女とは別れた。あれはミドル・エイジ・クライシスだった」と迎えに来た!

このあたりのまさかの展開の描写は、ちょっと邦画ではあり得ないようなナチュラルさ。北欧の映画が興味深いのは、シングル・マザーになってもまがりなりにも人間らしい暮らしができる条件が整っているからだろう、結婚も離婚もお金や世間体が問題にならないところ。つまり、女も男もそれぞれの気持ちと互いの関係性だけがモノを言う世界なのだ。

サブ・ストーリーとして、エコロジカルな志を抱いて都会から移り住んだものの、とかく何事も上手くいかない農場の若いカップルの結婚生活の危機が絡む。建築学の修士論文を書き上げないままで、5歳の娘のよい母親になれない自分自身に秘かに苛立つ妻に、農場主としても男としても自信を失いつつある夫。こちらの描写もさりげないながらもリアルこのうえない。

さて、当然のように元夫との馴染んだ生活に戻るつもりではあるものの、どうにも新しいオトコとも別れ難くて、「ああ、からだがふたつ欲しい」というヒロインはどうする?

もちろん映画はヒロインの未来を観客の想像にゆだねて終わるのだけれど、初日のティーチインでヤボは承知で監督に「映画を作る過程で監督自身、いろいろなアイデアがあったはず。それを聞かせて欲しい」と質問してみた(フィンランド映画祭の通訳さんは日本語が超絶に上手なので、安心してどんな質問もできる)。

今年40歳という監督がまず考えたのは、とにかくヒロインがどちらを選んでも説得力があるように、男たちを造型することだったとか。「幸福になりたいと願っていても、人生とははたして結果はどうなるかわからない選択しなければならないもの。ヒロインにはそんな未来にむけて一歩踏み出す勇気を持たせたいとは思いました」。

いや、実にオトナな映画でした。

11月9日にもう一度上映あり。
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