ずどこんちょ

ジュラシック・ワールド/新たなる支配者のずどこんちょのレビュー・感想・評価

3.4
前作で恐竜の放たれた世界。今や人類と恐竜はいかに共存するかを模索しながら生きています。
人間の日常の中に恐竜が住む世界。まるで山から街に降りてきた野生動物のようです。凶暴で人に危害を与える恐竜もいれば、無害で誘導されながら山へと帰っていく恐竜もいます。
いかにして"共存"していくのかをテーマに描いていくのかと思っていましたが、意外と想像していた展開と違いました。

恐竜保護施設を設立して研究を進めている大企業のバイオシン社が密かに研究して外に放ってしまった、失敗した実験体の巨大イナゴ。
巨大イナゴの影響で世界中が食糧難の危機を迎えようとしていました。バイオシン社は世間に事実が漏れる前に証拠を隠蔽し、巨大イナゴを駆逐しようと画策します。そのために、今はオーウェンとグレンに匿われているメイジーを狙います。メイジーはかつて優秀な科学者だった母親から遺伝子操作を行われて命を救われていたのです。
つまり、オーウェンとグレンは誘拐されたメイジーを救助するため恐竜たちが集まるバイオシン社に乗り込むのです。

一方、巨大イナゴの被害の真相を突き止めるために大企業の闇に迫るのが、旧シリーズ『ジュラシック・パーク』シリーズで活躍した伝説の男、古生物学者のアランとエリー、そしてイアンです。
3人もまた、イナゴの真実を隠蔽している証拠を掴むためバイオシン社に乗り込み、そこに誘拐されていたメイジーを見つけ出すのです。
"共存"する世界も少しは描かれますが、それよりもむしろバイオシン社の悪事と人間のエゴによって再び崩壊の危機が訪れる騒動が描かれます。
前作で恐竜たちが世界に解放されてしまって、一体世界はどうなっていくのだろうという終わり方をしていたので、今回「新たなる支配者」という副題を見たら、世界規模での人類と恐竜の"共存"は実現可能なのかをテーマにするのかと思っていましたが、案外、スケールの小さな話でした。

とは言え、新旧"ジュラシック"シリーズのキャストが揃い踏み!これは豪華です。シリーズ集大成とも言える作品です。
かつては恐竜と人間は相容れない関係性で描かれていて、人間は恐竜たちから捕食されるか否かというところで逃げ回っていたわけです。
だから、恐竜と心を通わせて調教することのできるオーウェンと恐竜の関係性は、旧シリーズで活躍していたアランたちには驚くべきこと。
子供のラプトルを眠らせて、背中に背負って巣に返そうとするオーウェンの姿が旧シリーズの彼らには新鮮に見えるのです。
『ジュラシック・パーク』と『ジュラシック・ワールド』の主人公の立場の違いがこう言う形で比較されて面白いです。

しかしやはり、なんといっても「ジュラシック」シリーズの醍醐味の一つは野生の恐竜たちに襲われるスリルと恐怖にあるのではないでしょうか。
森の中に不時着したグレン。その目の前には獰猛な恐竜が迫ります。這いつくばって物音を立てずに逃げようとするグレンの背後から近付く凶暴な恐竜の影。
池の中に身を潜めたグレンの水面で恐竜が大声で威嚇するのです。
しかもこれらの恐竜たちはCGだけでなく、パペットやロボットで動かしているものも多く、役者たちの目の前まで実際にリアルな恐竜たちがジリジリと迫ってきているのです。巨大なギガノトサウルスが迫り来るのも、首から上はロボットです。そりゃあ叫びたくもなります。興奮もします。
懐かしいスリル。目の前に迫る命の危機。このスリルこそが、ジュラシック・ワールドの醍醐味です。

そして、本作で鍵を握るのがメイジーです。
前作では母親のクローンと噂されていたメイジーも13歳になり、繊細な時期を迎えています。今はオーウェンとグレンに匿われていますが、慎重に行動制限を課す二人に対して嫌気が差しているのです。二人のことは両親でも何でもないと、複雑な感情を抱いているメイジー。そんな彼女がバイオシン社の手に捕まり、研究者だった母親と自分の誕生の真相を知らされて、メイジーは自分の存在が巨大イナゴの被害を食い止める鍵を握ることを知るのです。
研究所から脱出して、救助に来たオーウェンとグレンに再会できた時、咄嗟に二人のことを「両親」と言ったのは彼女の中の変化でした。つい先ほど、本物の母親の記録映像を目にしていたにも関わらず、彼女は二人の姿を捉えて「私の両親よ」と叫んだのです。いや、それはこれまでクローン人間と噂されて自分のアイデンティティを見出せなかったメイジーでしたが、記録映像を通して母親が自分のことを求めて生み、愛してくれていたことを知ったからではないでしょうか。自分は求められ、存在していても良い人間だと理解したのです。だからこそ、自分のことを大事に思って危険も顧みずにこんな研究所まで救い出しに来てくれた二人に愛情を感じることができた。
血の繋がりもなく、過ごした年月もそれほど長くはないのですが、彼女の中で二人は確実にかけがえのない存在となっていたのです。
親の忠告はしっかり聞き入れておかないと痛い目にあいます。13歳の少女も身に沁みて学んだのではないでしょうか。

バイオシン社がメイジーとラプトルの子供を攫ったのは、メイジーの母親しか知らなかった卓越した遺伝子操作技術と単体繁殖の方法を解読するためでした。
そのために人間を誘拐したのです。目的のためなら手段を選ばないのが、バイオシン社のルイスです。別の役者が演じていますが、第1作目から出ているキャラクターです。
物腰柔らかな印象なのですが、淡々と目的達成のために突き進む欲の強い一面を持ちます。人と情緒的なやり取りを苦手としている様子。
いかにも優秀だけど人に嫌われるタイプのリーダーです。
そんなルイスだから、イナゴのことも密かに隠蔽しようとしていましたし、証拠を握り潰すために焼却処分もしました。結果として、それが仇となって焼け落ちたイナゴが研究所を破滅へと導いていくのですが。

「ジュラシック」シリーズでは勧善懲悪が描かれてスカッとします。大抵、こういう悪人は恐竜たちに痛い目に遭います。
ルイスも御多分に洩れず。ディロフォサウルスに液体をかけられて死にゆく姿は、かつてのシリーズでの描写を彷彿とさせます。

恐竜に襲われるスリルや恐怖が懐かしい最終章。特にその冒険の中心にあの日のアランやエリーたちがいるのも、原点回帰を強く感じさせます。
思っていたよりもスケールの狭い範囲での続編ではありましたが、様々なオマージュで「ジュラシック」シリーズの原点を感じられたのは良かったです。

追記:Blu-rayの特典に入っていた短編映画の『Battle at Big Rock』は、それこそ恐竜と人間が共生する世界の危機を描いていて迫力満点でした。