Kuuta

ウエスト・サイド・ストーリーのKuutaのレビュー・感想・評価

4.1
・異様な光量が画面をギラつかせている。褪せた世界に刺さる原色。光と闇、白人と有色人種、男と女、暖色と寒色、理想と現実、愛と憎しみ、生と死…さまざまな二項対立が肉体と共に交差、衝突、回転、離散している。

誰かが歌えば誰かが呼応し、誰かが攻めれば攻め返す。異なる概念がぶつかり合うエネルギーこそがアメリカなのであり、膨らみ過ぎた感情が悲劇によって断ち切られる、その痛みもまたアメリカの歴史を表している。

・舞台をそのまま持ち込んだような平面的な絵作りを貫いていたオリジナル版に対し、今作は全力で「映画」している。奥行きと上下を存分に使い、カメラも大いに動く。

これだけの情報量でも画面ががちゃがちゃしないのは、適正なカメラの距離と、編集の力なんだろう。リタ・モレノの見せ場となる終盤の歌唱シーン、頑なにミドルで撮っていて、寄らないし割らない。

・ジェッツは物の投げ渡しで連帯する。ジェッツから抜けたトニーの初登場シーンは、「直接的には投げない」形で表現されていてここも痺れたなあ。

・オリジナル版と同じ印象なのだが、中盤の大きな見せ場の後に色んなエピソードが続く構成は、あまり好みではないし、展開に違和感を覚える部分もある。ただ、これもオリジナル版同様、ダンスシーンがあまりに良いので、細かいストーリーは考え過ぎずに何となく見る、という態度で楽しんだ。

(多くの人が書いているが序盤が凄すぎる。マンボ辺りまでの勢いが2時間半続いていたら、本当にスピルバーグ最高傑作になっていた可能性がある)

・改めて考えると結局「ホーム」を巡るお話であり、ちゃんとスピルバーグらしいテーマじゃないかと思った。

・オープニングショットに俯瞰を選んだロバートワイズに対するスピルバーグの回答は、代名詞たるクレーンショット、下から上への「希望」で切り出し、ラストに俯瞰を配置することだった。

・マリアとトニーは背丈の違いを乗り越えて目線を何度も入れ替える。怒りや憎しみに体を染め上げる赤や青に対し、肌の色の違いを剥ぎ取っていく結婚式のステンドグラス。場面設定的にはオリジナル版の方が好きだけど、ここの色のグラデーションは素晴らしかった。

・エンドロール。痛烈なメッセージと共に「END」で締めたオリジナル版の切れ味も見事だが、スピルバーグは光と影の連鎖によって敢えて物語を終わらせなかった、と解釈。82点。
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