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ウエスト・サイド・ストーリーのRenのレビュー・感想・評価

4.0
今年はアカデミー作品賞に旧作リメイクが4作ノミネートするという異色の年だった。その一作である今作をDisney+で鑑賞。『ウエスト・サイド物語』も『ロミオとジュリエット』も未見なので、完全初見の感想をメモ。

第一に、面白かった。
なぜ60年も昔の作品をリメイク?とは思ったりもたけど、やはりそこには語り直すだけのメッセージがあった。集団/国 の分断、という半永久的に完全に解決はされないであろう社会問題を、最高の監督が最高の撮影と美術と音楽を駆使して鮮やかに描き出している。この60年いつリメイクされてもよく、ただ巨匠が着手したのがこの時代だったという話だったのかなと。

とにかく登場人物と情勢が目まぐるしく変化し事件があれこれ起こるのだけど、これだけの急ぎ足展開を歓喜に納得させるには「ミュージカル」しかないのだと確信できる。歌は偉大。まともに話していたら1時間かかる機微も3分歌えば説明できる。今作からミュージカル要素が取っ払われた瞬間におそらく映画はスカスカになり、逆に言えばちゃんとミュージカルであることが映えるお話になっていた。

ジェッツが寒色、シャークスが暖色と分けられた衣装も目にも鮮やかで素晴らしい。意図的に色彩を落としたシーンの反動が、学校でのダンスシークエンスや『America』の路上ダンスパート(ここ最高!)で一気にやってくる。視覚的カタルシスのコントロールが上手い。開幕のクレーンショットも然り、やっぱりスピルバーグ作品は純粋に観ていて気持ちいい。

ジェンダーや国籍の分断をこれでもかと見せつける中で「銃」という小道具の使い方も印象的。対立を終わらせるための力として持ち出したそれは、結局悲しみを深める有害な武器でしかない。戦争ってそういうもの。因みに中盤の銃奪い合いアクションはミュージカルならではのしなやかさがあって個人的には◎。

対立の壁を愛は乗り越えられるのか?結局それは、トニーとマリアが出会ったパーティー会場の客席の下、誰の目も届かない場所でしか成り立たないのではないか、という現実。
今作がミュージカルとして魅せた物語は、今この瞬間にも世界のどこかで起きているはず。

個人的不満点は、主演のアンセル・エルゴート。彼自身のスキャンダル疑惑についてはここでは触れないけど、「マリアが彼に惹かれる魅力」「マリアと一緒になりたいと願う愛の強さ」「更生の最中 自分の衝動に抗えなかった弱さ」、重要な箇所の説得力が少しずつ及んでいなかったような気がどうしてもしてしまった。彼は『ベイビー・ドライバー』のような、寡黙ポーカーフェイスのほうが向いているのでは....?
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