Ricola

ウエスト・サイド・ストーリーのRicolaのレビュー・感想・評価

3.6
エネルギーに満ち溢れている歌とダンスのパフォーマンス・スペクタクルショーに圧倒される。
とはいえ、現代社会の闇にも焦点が当てられており、問題提起的側面も強い社会派作品であった。

お恥ずかしながら、ロバート・ワイズ監督の『ウエスト・サイド物語』を観たことはないまま、このスピルバーグ版の鑑賞に至った。ただ作品が始まってすぐに、この作品を観るのに予備知識は良い意味で必要ないと思わされた。
とにかく、もはや活劇と言っても過言ではないダンスや歌唱シーンの熱量を体いっぱいで感じとることが、この作品を「楽しむ」正解の一つなのではないか。


躍動感あふれるパワフルなダンスの競演がダイナミックに映し出される。
冒頭の青年たちが街中を闊歩するシーンでは、だんだんと起き上がるように音楽やダンス、そしてカメラワークも動きを増していく。これから彼らのストーリーが始まるのだ、というワクワク感をこのシーンのさまざまな要素から感じられる。

マリアとトニーの出会いのシーンで人々がクルクルと眩い速さで勢い良く踊っていたり、マリアの住むアパートの外を囲む鉄格子を利用したアクロバティックかつスローでロマンティックなパフォーマンスなど、生命力みなぎるミュージカルシーンに観客は巻き込まれていく。

その一方で、社会問題もしっかり提示されている。
"America"のシーンでは華やかなデパートを舞台に女性たちの労働状況への皮肉が織り交ぜられた力強い訴えが表現される。
人種差別問題は作品の核にあるためもちろんだが、他には特に女性の権利が強調して言及されていた。
女性の受ける被害や差別に対して彼女たちの抱いている問題意識は、人種や世代を超えて共有されるものであることがはっきりと示されているのだ。

人種やジェンダー、世代間に関する現代社会で渦巻く問題が解決されるだなんて、そんなのファンタジーでしかない。
この作品ではそのような問題の醜い側面が現実に近い形で提示されている。
例えば、社会の分断を表すような仕切りが作中の所々で現れる。
マンハッタンのアパートの外側についている鉄格子は若い恋人たちを阻むし、ボクシングジムのリングとそれを囲むロープは人種間の断絶を示す壁のように、ローアングルショットで映し出される。

明るく華やかなミュージカルシーンの一方で、現代の社会問題に対して容赦なく突き刺すような問題提起もちゃんとなされているパワフルな作品だった。
Ricola

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