暗く汚い路地裏で、人とも猫ともつかない謎の生き物がクネクネと歌い踊る。
この「猫人間」はネズミを踊らせ、大量のゴキブリに行進を強いて、挙げ句の果てに彼らをむしゃりと食べてしまいます。
“食用兼踊り子”であるネズミやゴキブリもまた「ネズミ人間」「ゴキ人間」の姿形をしており、まったく予想外の残酷悪趣味ゲテモノショーに驚きと喜びを隠しきれませんでした。
この映画は「ポルノ」「ホラー」などと叩かれまくっていますが、それにも納得です。
暗い路地裏であらゆる欲求を剥き出しで乱痴気騒ぎをする猫人間の品のなさは異常で、終始凄まじい妖気を放っています。
しかし同時にその遠慮も配慮もないストレートさが、エログロ…とまではいかずとも「悪趣味ミュージカルエンターテインメント」としての魅力を高めているように思います。
ただ言っておきたいのは、全裸以上に全裸なイドリス・エルバなど、確かに「嘲笑的な見方」で楽しめる要素がふんだんにある一方で、イアン・マッケラン演じるガスの独唱シーンは本当に素晴らしく、思わず落涙しそうになりました。
酸いも甘いも噛み分けた経験に裏打ちされた貫禄で、今まさに場の空気を呑み込んでしまっている!という空気が伝わってくる表現力には鳥肌が立ちました。
ブルーレイでこのシーンは何回も見たいです。最後の猫拍手(ほぼ猿人間)も含めて最高です。
僕は正直『ラ・ラ・ランド』よりずっと素晴らしいミュージカルだと思うし、大嫌いだったトム・フーパーを少し好きになりました。
あとは犬を泣き声だけじゃなく、ちゃんと「犬人間」として登場させてくれていたら満点でした。
こうしてまったく作者の意図とは違う方向に作品が転がり、大金を投じた世にも奇妙な珍作が生まれてしまった奇跡に感謝したいです。
今宵も不気味の谷で踊る猫人間に幸あれ。