セッキー

きみと、波にのれたらのセッキーのレビュー・感想・評価

きみと、波にのれたら(2019年製作の映画)
3.5
去年見逃していた映画の一本。DVDをレンタルして来ました。
予告を見た限り、自分には合わない作品かなと思いましたが、『夜は短し歩けよ乙女』の湯浅政明が監督で、『聲の形』の吉田玲子が脚本をしている作品で面白くない訳がない。
観てみると不覚にも落涙してしまいました。


前半は胸がキュンキュンするようなラブストーリー。サーフィンが得意な大学生のひな子は、ある日火事に巻き込まれ、自分を劇的に救出してくれた消防士のみなとに恋をします。
それがきっかけで二人は頻繁に会うようになり、付き合い始めます。
ドライブをして歌を歌ったり、一緒にサーフィンをしたり、また千葉ポートタワーから夜景をみたりと、GENERATIONSの「Brand New Story」にあわせ、ミュージックビデオのような編集とテンポ感で、恋人デート描写が描かれます。

劇中で「Brand New Story」を二人で歌うシーンが何度もでてくるのですが、この曲が後半のストーリーに有機的に働いてきます。

前半の胸キュン映像の連べ打ちですが、個人的には楽しめましたが、これに乗れない人は、正直この映画が苦痛でしかないと思いますね。笑

そんなこんなで、ひな子とみなとは恋人として、とても深く結びついていきますが、なんとみなとが、海で溺れる人を助けようとして、死んでしまうんですね。

でもこの映画が少し変わっていると思ったのは、普通ならお涙頂戴の暗いトーンの話になるところが、明るいままなんですよね。確かにみなとを失ったひな子は茫然自失となりますが、周りは明るいまま。なんかこのあたりがやけにリアルで、そんないつもの日常であり続けるからこそ、そこに居たはずの人が居ない喪失感が際立つように感じました。
いつもと変わらない日常だからこそ寂しいって感じで、正直見てて泣いてました。

で、ここからがファンタジーになるのですが、例の、よく二人で歌っていた「Brand New Story」が機能します。

ひな子はこの曲を、無意識に口ずさむと、なんと飲んでいたグラスの水の中に死んだはずのみなとが出現します。あの曲が呪文のようになり、川や海や水たまりなど、水の前でこの曲を歌うとみなとが出てくるんですね。

水の中だけとは言え、大喜びのひな子。ただし、周りの人にみなとは見えないんですね。ロマンポランスキーあたりが監督だったら、彼氏が生きているという妄執に取り憑かれた女というテーマのおどろおどろしい話になっているはずですが、本作はあくまでカラッとしているんですね。

観念として存在するならそれもよしって感じで、ひな子はみなとを入れた水筒を胸に抱えて、デートしたりします。

このあたりはファンタジーですが、大切な人を失ったことがある人なら共感できるのではないでしょうか。その人がよく使っているものを見てその人を思い出したり、その人が夢の中に出てきたり、観念として生き続けていますよね。

そんなこんなで、立ち直ったかに見えたひな子ですが、でもやっぱり、肉体の喪失というのはいくらプラトニックな関係を結んでいたとしても、大きな問題として立ちはだかるんですね。結局ひな子にとって観念としてのみ存在するみなとは依存の対象となっていきます。みなとはこのままではひな子が不幸になると思い、自分に依存しているひな子に自立するよう促します。

やっぱり死者に頼って生きちゃだめなんですよね。

ここからひな子はみなとに頼らないよう、自立して生きていけるように努力をしますが、なんとも健気で応援せずにはいられません。
そんな感じで、ひな子に感情移入しながら見ていましたが、終盤にある、過去からのみなとのメッセージを聞いて泣き崩れるくだりは、見ているこちらの涙腺もやばかったです。となりの部屋でパソコンをいじっていた妻に嗚咽を聞かれないように、泣くのがきつかったぐらい。

喪失からの再生という重いテーマをポップにエンターテイメントで見せ切るあたり、湯浅政明監督はただものではないと思いました。

今あるものを大事にしようと思わせたり、また何かを失くした人に勇気を 与えてくれるような、とても優しい映画でした。
セッキー

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