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メモリーズ・オブ・マイ・ボディのTOTのレビュー・感想・評価

3.8
‪家族への想い、同性への愛、社会も政治も男性性も女性性も内在する青年のドラマ。
インドネシアの歴史と風土、舞踊家リアントの踊りが凄みを加える悲劇の連続は、それでも生きる個人を祝福するような晴れ晴れしさもある。
私は私、あなたはあなた。
この身の内にトラウマを抱えて、どこへでも行けると個人にも国にもメッセージを送るような物語。
3年のリサーチを重ね、舞踊家リアントの半生と舞踊団からインスパイアされた作品は、主人公ジュノの物語の間にリアントの詩的な語りと踊りが入る。
物語パートと趣きを変え、リアントの踊りを正面からフィックスで捉えるカメラが場を演劇的空間に変え、ジュノの次なる物語を導きながら分断して乱調する。
鶏の総排泄腔に指を入れて産卵を当て、懲罰で指に針を刺された幼き日々。
成長して仕立て屋となり、同性に触れられて愛を知るが、社会と政治の中で抑圧され、罰するように自ら指に針を刺す。
‪世界に触れて世界を知り時に血を流すジュノの記憶とセクシュアリティの苦悩は、踊る時だけしか癒されない。‬
女装した男性が踊るジャワの舞踊レンゲルを踊る時だけ開放されるジュノの女性性。彼の指先まで柔らかな踊りと、プンチャック・シラットを対置してみせるシーンは美しく、同性愛や異性装を認めないと思っていたインドネシアの地方にそれらに根付いた伝統、小姓のような少年愛的言及があるのも驚かされた。
‪上映後Q&Aで、インドネシアでは選挙時期に公開されたのは意図したわけでなく、たまたまと言ってた監督。
上映が危ぶまれた(危惧した?実際になった?うろ覚え)けど、民主主義なのにおかしいよね?とも。
「トラウマに対峙しなければ更なる暴力を生む」という言葉も印象的。
‪インドネシアの共産党関係者大虐殺の歴史も織り込み、政治と社会と個人のセクシュアリティがわかちがたく関わっていることを見せる物語。
好きかと聞かれればそうでもないけど、奇妙な熱があり、のどかで美しく、湿気を帯びてセクシーな風景と、ロマンチックな音楽、舞踏を共存させて唐突にユニークな演出は面白かった。
7/7(日)にも監督Q&A付上映あるよ。
https://jfac.jp/culture/events/e-asia2019-masters-of-southeast-asian-cinema/‬
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