blacknessfall

テッド・バンディのblacknessfallのレビュー・感想・評価

テッド・バンディ(2019年製作の映画)
3.5
テッド・バンディはシリアルキラー界のスター中のスターなんだけど意外と映像化作品が少ない。
シリアルキラーにはマニアがそこそこいて、その人達は必ず観るから安手の映画が作られたりするけど、バンディはネタが多くて納めきれないせいか、本当にあまりない笑

知的な雰囲気がある精悍な風貌、優秀な法学生、紳士的な物腰で女性受けがいい。こういうタイプのシリアルキラーはフィクションにはけっこう出てくるけど、リアルではほとんどいないんだよね。
そして、二度の脱獄に弁護士を解任して自ら自分の弁護を法廷で熱弁する。全てが破格にフィクショナルな存在だから、1本の映画に納めるのが難しいんだと思う。

だからなのか?この映画はバンディよりバンディの婚約者だったシングル・マザーにウエイト置いて、彼女の視点からバンディを映し出す作品になってた。

彼女は婚約するぐらいだからバンディを本気で愛していて、バンディの無罪を信じてるんだけど、次々とバンディ有罪の事実が浮かび上がり苦悩していく。
我々はバンディをあのバンディとして見てるからこの女性をひどく思考力と判断力が弱いダメな人として捉えてしまいそうになる。でも、彼女の前でバンディが見せる姿は包容力のある知的で優しさに溢れたもので、彼女より早く起きて甲斐甲斐しく子供の世話と朝食を用意したする。とても女性を拐って虐殺するようなサイコ野郎には見えない。
相手がシリアルキラーじゃなくても好きになってしまった相手がヤバいクズだと知りつつ、それを認めたくなくて悩むのはよくある話で、シリアルキラー映画なのに誰しも共感可能な普遍的な作品になってる。

さらにこの映画の構造がバンディを魅力的な紳士に見せるようになってる。犯行シーンがほとんどないからバンディを知らない人が見たら冤罪をかけられた不幸な男のように見える。
彼女の前でも裁判でもメディアのインタビューでもバンディは雄弁に自身の無罪を淀みなく話す。
俯瞰して1つ1つ検証すると矛盾とアラだらけなんだけど、その場その場で途轍もない魅力と説得力があるから、それに魅入られるとバンディの言うことしか信じられなくなる。
現にバンディの元カノは裁判の証人になり彼のために虚偽の証言をする。メディアに写るバンディに惹かれ彼の無罪を信じる女性達が何人も出てくる。

ある種のサイコパスにある魔力だと思った。罪を犯していながら無罪を信じられる。利用できる相手には相手が望む姿を見せ信じ込ませ徹底的に利用する。芯が何処にもない欲望と虚無の塊。
その怖さを克明に画いた力作だと思う。

それと、この婚約者とバンディの関係、高須克弥と西原理恵子と似てんじゃないかと思った。
高須は言動、行動でレイシストのクズ野郎なのは周知の事実なのに西原のマンガに出てくる高須は妻を深く愛する好好爺じみた大金持ちの紳士だよね。
西原理恵子も本当はバンディの婚約者みたいに葛藤しながら信じたい像にしがみついてて苦しんでるんじゃないか!?と、一瞬思ったけど、サイバラは創作では弱者に寄り添った視点からコミカルでありながらリリカルな作品書いてるけど、エッセイやトークで「金が何より大切」「自分と家族さえ良ければいい」みたいなこと言ってるから、まったく葛藤なぞしてなくて、金と家族のために嬉々として高須とイチャイチャしてんだよ。この2人は同じ穴の狢なんだよな。胸糞悪いカップルだな!
blacknessfall

blacknessfall