ベビーパウダー山崎

川沿いのホテルのベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

川沿いのホテル(2018年製作の映画)
4.5
ここまで成熟した作家がほとんど「社会」を描かず(リンクさせず)個と個の問題、その先にある孤独でいまだに映画を完結しているのはさすがにどうかと思うが、ホン・サンスとしては新機軸の「家族」から物語を転がしていくのはそれなりにわくわくした。ホン・サンス組の常連役者たちがホテルという限られた場でホン・サンスの日常を構築していく、まだ見ぬ世界を開拓して動き続ける映画というより長年見続けてきた劇団の一つの公演(新作)に触れているような感覚。ラスト、扉の向こう側から聞こえてくる叫びや嗚咽で映画が閉じてしまう(逃げ切ってしまう)ことを恐れたが、しっかりと死者の顔を映すその誠実な姿勢にいまだ信頼できる作家だとどこかホッとした。ホン・サンス映画での「仕掛け」をあえて避け、ただすれ違い、ただ生きて死ぬだけの映画。どこか『マルグリット・デュラスのアガタ』の匂いもした。