MasaichiYaguchi

あいが、そいで、こいのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

あいが、そいで、こい(2018年製作の映画)
3.8
タイトルはロケ地の和歌山県田辺市の方言で標準語にすると、「あれが、それで、これ」を意味する。
この作品は、ある一夏の「あれが、それで、これ」を描いたものと言えるが、それには主人公をはじめとした登場人物達にとって掛け替えのないものになっていると思う。
物語は、今では社会人となった主人公の萩尾亮が高校3年の夏を回想する形で展開していく。
亮の父親は一家が住む海辺の田舎町でみかん農家とイルカショーを営んでいるが、そこにイルカの調教師を目指して台湾から留学生の少女リンがやって来る。
この少女と亮、そして彼の同級生達、堀田健太、絹川学、小杉茂雄、そして彼の幼馴染みの瀬戸由衣花、彼らの出会いが忘れられない夏を形作っていく。
和歌山県には出張で数回行ったことがあるが、海辺の方には行く機会がなく、本作を見て、その空と海の青さに心が洗われる思いがした。
そして描かれた10代後半の子供でも大人でもない、不器用だけど純粋で、物事に直向きなところが懐かしさと共に胸に刺さってくる。
イルカの調教師になる為だけではない、リンが海辺の田舎町に来た本当の理由、亮の父親が日々の生活に抱く本音、それらが陽光溢れる物語の中で影を作り、映画に奥行きを与えている。
映画の終盤での幾つかの出来事、良いことも悪いことも主人公達がいつまでも子供ではいられないことを後押ししているような気がする。
映画の冒頭と、それと対を成すラストの方の印象的なシーンで広がるコバルトブルーが、心に甘く切ない思いを残します。