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キングスマン:ファースト・エージェントのsanbonのレビュー・感想・評価

3.8
皆様、お久しぶりでございます。

およそ3ヶ月もの間更新をサボり散らかしておりましたが、年末休みに入りようやく重い腰を上げなくてはと己を奮い立たせながら(正直まだ気乗りはしてない)、なんとか文章を書き進めております。

そんな復帰作に選んだのは、自身も大好きな「キングスマン」シリーズの最新作。

今作は、舞台を1914年にまで遡り「第一次世界大戦」の裏でロシアを操っていたとされる怪僧「グリゴリー・ラスプーチン」を敵に、キングスマンの誕生秘話が明らかにされる外伝的な内容となっているのだが、コロナの影響で延期に次ぐ延期により公開を待ち侘びすぎて期待値が青天井になっていた事を差し引いたとしても、贔屓目に言ってもちょっとガッカリだったと言わざるを得ない。

まず、大前提としてキングスマンの魅力とはなにか。

それは、日用品を模した秘密道具の数々だ。

ここは、今作の時代背景を知った時から懸念はしていた部分ではあるのだが、やはりそもそもが誕生秘話というだけあって、そのようなスパイグッズ自体が今作には一切登場しない。

キングスマンといえば「傘」が代名詞ともいうべき武器の一つとして登場するが、今作でもそのような今作"ならでは"と呼べる印象深い武器がガジェットととしてではなくても登場してくれれば、もしかしたら盛り上がりの一端にはなったのかもしれないし「杖」がそうなりそうなポジションで登場するもんだから、その分肩透かしを食らったような気分にすらなってしまった。

そして、次は「マシュー・ヴォーン」印の過激アクションである。

マシューと言えば「KICK-ASS」をはじめ「X-MEN」シリーズの中でも高評価作品を手掛けるなどして名の知れる監督であるが、その人気の要因は何と言っても斬新なアクションシーンによるものだと思っている。

特に、このキングスマンシリーズに至ってはその手腕により磨きをかけ、まさに"ならでは"と呼べる唯一無二のカメラワークを駆使したアクションが最大の見どころとなっていた。

しかし、今作に限ってはそのアクションシーンにマシューらしさをあまり感じる事が出来なかったのは非常に残念極まりない。

それこそ、ラスプーチンの踊りながら戦う独特な戦法くらいしか印象的な戦闘シーンが無かったし、やはりあの一人称視点から繰り出される臨場感MAXのカメラワークをとても楽しみにしていただけに、そういった場面を一つも確認出来なかったのはとても寂しい想いでいっぱいになった。

しかも、目ぼしい見せ場はほとんどが予告で確認出来る場面ばかりで、本編での楽しみが大いに削がれていた事は看過しようもない。

そして、なによりキャラクターにあまり魅力を感じないのが一番いただけない。

やはり、キングスマンといえば「エグジー」と「ハリー」の二人なのだという事を痛感させられた。

今作の主人公は、あの「ヴォルデモート」で有名な「レイフ・ファインズ」演じる「オックスフォード公」なのだが、正直言うとインパクトがかなり弱い。

初期は足が不自由という設定のキャラでありながら、その傷が癒えた後も動きに特段これといった変化を感じられなかったり、非暴力の誓いを立てながらも諜報活動を続ける事に対しての苦悩や葛藤といったものもあまり魅力的には描かれていない。

ここでも、キングスマンらしいキャラといえばラスプーチンの一強で、あとは「こいつ面白いなぁ」と思える人物がほとんど見つけられなかったのは残念至極である。

というか、どんな作品においても「オリジン」を描いた内容というのは、面白くさせるには中々にハードルが高いものがあると常々思っている。

何故なら、それはつまり本編開始前の「イントロダクション」を"メイン"に描くという事だからである。

今作でいうと、どの国家にも属さない完全独立性の諜報機関が創設される"きっかけ"にフォーカスを当てた内容になっているのだから、厳密にいうと今作はキングスマンでありながら"スパイ映画ではない"のだ。

だから、前述したスパイグッズも出てこなければ、キングスマン"ならでは"の要素は影を潜めざるを得ないし、前2作に思い入れが強い人程登場人物が一新された今作には"刺さるもの"を見出しにくくなっているのだと思う。

それでいうと、今作でキャラクターの自己紹介も終わり、キングスマンも立ち上げが完了したこの外伝は、次回作こそが本当の勝負になるのだろうが、とにかく"ならでは"を感じる事があまり出来なかった今作は、キングスマンとしては期待外れとしか言いようがなかった。(それでもスコアは若干贔屓目)

また、エグジーとハリーが主役のシリーズは2022年9月から撮影が開始され次作で完結となるらしいが、それを含めてキングスマンシリーズは現在なんと7作もの企画が進行中だという。

その膨大過ぎる本数にも驚くのだが、今作の期待値に対するミスマッチによって、喜びよりも一抹の不安を感じるところとなってしまった事実は否めない。

ともかく、今後どのように世界観を拡充させようとしているのか楽しみにしつつ続報を待つとしよう。

豆知識: キングスマンが店を構える「サヴィル・ロウ」とは「背広」の語源にもなっている世界的にも有名な高級紳士服店が軒を連ねるロンドンに実在するストリートである。
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